(21)神保町からウッドストックへ
[2022/1/22]

神田神保町の東京堂書店での『新宿書房往来記』(港の人)刊行記念「新宿書房祭」(2021年12月7日~2022年1月17日)が無事終了した。まるでサーカスや見世物小屋のような見事な展示だった。『新宿書房往来記』(港の人)に寄り添うように、今の新宿書房の130点余りの書籍が盛大に展示された。すべて、東京堂書店のみなさん、なかでも石井隆広さんのおかげである。最終日の17日のお昼前に、港の人の上野さんと待ち合わせ、石井さんに会ってお礼のご挨拶をした。
1月15日の『毎日新聞』書評欄「今週の本棚」に短評が載った。512字の(琢)記者による、素晴らしい、愛にあふれる文だ。
すぐさまその効果が出たようで、東京堂書店恒例の「週間ベストセラー」(18日調べ)のランキングではなんと第4位に返り咲いた。
「新宿書房祭」会期中の『新宿書房往来記』の記録:
12月14日 第4位(総合)
12月21日 第1位(総合)
12月28日 第3位(総合)
1月4日  第8位(文芸)
1月11日  圏外に去る
1月18日  第4位(総合)


『毎日新聞』1月15日

岩波ホールが2022年7月29日(金)で閉館すると、同ホールが1月11日に公式サイトで発表した。「新型コロナの影響による急激な経営環境の変化を受け、劇場の運営が困難と判断いたしました」同ホールは1968年2月に開館。74年には「エキプ・ド・シネマ」(フランス語で〈映画の仲間〉)がスタート、その第1回上映作品はサダジット・レイ監督『大地のうた』3部作の第3部『大樹のうた』である。以後、日本・世界の名作映画を紹介してきた。近日上映の「ジョージア映画祭2022 コーカサスからの風」(1月29日~2月25日)の企画者の一人で元岩波ホール社員の、はらだたけひで(2019年退職、画家・絵本作家)さんは、「岩波ホールは人生の大半を過ごし、情熱の全てを注ぎこんだ場であり、閉館の知らせに語り尽くせないほど無念の思いがある。周囲への影響が極力少ないことを祈る。少なからず日本文化の一端のさらに一端を担ってきた自負があった。亡き高野悦子のことを想う。」とツイートしている。
本コラムの「三栄町路地裏だより」では、『山の郵便配達』(2001)、「俎板橋だより」では、『ハンナ・アーレント』(2013)、『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』(2019)などの岩波ホール上映作品についてふれた。
同じ日の1月11日、小学館と子会社の演劇出版社は、歌舞伎エンターテインメント月刊誌『演劇界』を3月3日発売の4月号をもって休刊すると発表した。
神保町交差点の角にある岩波ホール、そのすぐ裏手のさくら通りに面した演劇出版社の『演劇界』、二つの神保町文化が消えることになる。

マイケル・ラング(1944~2022)が1月8日死去。1969年8月15日~17日の3日間、ニューヨーク州のサリバン郡ベセル町ホワイトレイクにあったマックス・ヤスガ―の農場に40万人とも50万人といわれる若者たちが集まって行われた音楽フェス「ウッドストック・フェスティバル」。このウッドストックをプロデュースした20代の4人の若者のひとりがマイケル・ラングだった。ウッドストックを記録した映画もヒットした。このウッドストックのことは、コラム「俎板橋だより」に書いたことがある。
http://shinjuku-shobo.co.jp/column/data/manaita/034.html
http://shinjuku-shobo.co.jp/column/data/manaita/036.html
ちょうど「ウッドストック」が50周年を迎えた2019年8月のことだ。新宿書房が翻訳出版した『ウッドストック』(ジョエル・マコーワー著、寺地五一訳、新宿書房、1991、品切れ)のこともあわせてそこでふれた。
昨年の2021年8月27日に日本で公開された映画がある。それは『サマー・オブ・ソウル(あるいは革命がテレビ放映されなかった時)』である。これは、ウッドストックと同じ年の1969年6月29日から8月24日までの各土曜日の6回にわたり、NYのハーレムにあるマウント・モリス公園(現マーカス・ガーヴェイ公園)において入場無料で開催された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」のドキュメンタリー映画だ。毎回5万人、計30万人が集まった。ここからウッドストックが開かれたニューヨーク州のサリバン郡べセルまでは、わずか160キロの距離だ。ハーレムでの5回目の公演は8月17日だ。ちょうど、ウッドストックの最終日と重なる。しかし、公民権運動の高揚(キング牧師は1968年4月4日に暗殺されている)の中で行われた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の記録フィルムは一度も公開されることなく50年以上も地下室に眠っていた。この「ブラック・ウッドストック」といわれる祭典と映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは革命がテレビ放映されなかった時)』に、マイケル・ラングは生前どのようなコメントを発していたのであろうか。

注:「ウッドストック」と「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の両方に参加したミュージシャンはいるのだろうか。調べてみると、スライ&ザ・ファミリー・ストーンだ。

参考サイト:
https://www.pen-online.jp/article/008815.html
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/36414
http://turntokyo.com/features/summer-of-soul/