先日、ついに大井川鐵道に乗ることができた。この長年の夢を果たすことができたのは、友人であるM夫妻のおかげだった。ご主人のMさんはさまざまな旅情報を教えてくれただけでなく、1泊2日の小旅行の詳細なスケジュール表までをも用意してくれた。
8時27分の東京駅発「こだま709号」名古屋行きに乗り込む。M夫妻とわたしたち4人はこの列車の自由席内で待ち合わせする約束だったが、列車が入る前にホームで会う余裕があった。乗り込むとまず、朝食の駅弁を食べる。小田原駅に近くで白い山頭を見せていた富士山は、三島駅を過ぎると残念なことに雲に隠れて見えない。静岡駅で「こだま」を下車、在来線の東海道線に乗り換える。10時発の浜松行きの電車には、大学生らしき男性が数人乗っているだけだ。用宗(もちむね)、焼津を過ぎる。この用宗はシラス漁で有名な漁港であることを、あとで知った。
JR金谷(かなや)駅に着き、狭い地下道を通り抜ける。幸いエレベーターがあり、助かった。駅の外には出ないで、そのまま大井川鐵道大井川本線の金谷駅の連絡口に。ここで2日間有効の「大井川周遊きっぷ」を購入、4人はタテ18cm、横7cmの「ゆるキャン」のロゴとイラストが入った大きなきっぷを駅の窓口でもらったホルダーに入れて首から下げる。ここは島田市だという。
小さなホームでは古いステンレスカーの電車が待っていた。「7200系東急だよ」とM旦那がすぐさま教えてくれる。1968年(昭和43)に製造された東急電鉄の車両だという。「昭和電車」というらしい。10時57分に出発。
実はこの大井川本線、2022年9月23日の台風15号で大被害を受け、今も家山(いえやま)駅~千頭(せんず)駅の間は不通でバスが代行輸送をしている。いつ回復するか不明ということで、今日も家山駅までしか行けない。収入の7割以上を観光客に頼っている大井川鐵道には大打撃だ。
電車が新東名高速道路の下を通り抜けると、右手には大井川の広い、広い河原が見え始める。水量はきわめて少ない。大井川線の沿線は「川根茶」で知られるよく刈り込まれた茶畑がどこまでも続く。35分で家山駅(島田市川根町)に。この駅舎は歴史を感じさせるなかなかの建物だ。金谷~千頭間の開通が1931年(昭和6)、電化が1949年(昭和24)というから、たぶんかなり古い駅舎なのだ。映画のロケ地としてたびたび使われてきた。
この家山駅前から、大鉄系列の代行バスに乗って千頭駅に向かう。バスは大井川を挟んで大井川本線の反対側の道を行くので、どのあたりの線路で大規模な土砂崩落があったかは、わからない。赤く錆びた線路が見えるだけだ。川根温泉ホテル前(川根温泉笹間渡駅)を過ぎ、千頭駅(榛原郡川根本町)に到着。乗車時間は44分だった。
千頭駅は新しく立派だ。ここまで代行バスできたが、大井川本線の金谷駅~千頭駅間は39.5kmだという。すこし、駅前を散歩して、いよいよ大井川鐵道井川線(南アルプスあぷとライン)に乗り換え、南アルプスの懐、奥大井を目指す。千頭駅から赤いミニ列車(トロッコ)に乗った。12時30分に出発。乗客はわれわれを含め、10人もいたかどうか。大井川鐵道はほんとうに厳しい状況だ。われわれは車内で昼の駅弁を食べる。
大井川線のアプトいちしろ駅(榛原郡川根本町奥泉)と長島ダム駅間では、アプト式機関車の連結·解放作業が行われる。いまや日本で唯一のアプト式鉄道で、ここの1000分の90という日本一の急勾配を運行する。14時18分、終点の井川駅に到着。この間25.5km、トロッコは時速15キロ、60以上のトンネルをくぐり抜けてきた。海抜は686mだ。井川駅には駅長ひとり、まわりには人家がない。帰りのトロッコまで1時間以上ある。われわれは、井川駅を降りて、井川ダムに向かう。ダムの天端(てんば)に着くと。3人は丘の上にある井川ダム展示館への階段を上って行った。私は膝と脚に自信がないのでひとり駅に戻り、彼らの帰りを待つことにした。
井川ダムは1957年(昭和32)に竣工した。ここの今の地名は静岡市葵区井川(いかわ)だが、かつては静岡県安倍郡井川村だった。当時の井川村の553世帯のうち三分の一の193世帯がダムのために水没して、今の井川湖の東に広がる井川本村に移ったという。この井川本村に井川線を使う地元の人は少ない。県道、市道の4本のルートをつかえば島田市内、静岡市内へ1時間半ぐらいで行くことができるからだ。
大井川(全長168km)の水源は南アルプス(赤石山脈)の間ノ岳(あいのだけ、標高3190m)である。井川本村はこの水源まで続いている。この先のことは、Mさんの資料にはなく、いや彼は知っていたに違いないが、私は旅から帰ってから調べてみた。現在建設が進んでいるリニア中央新幹線の中で、JR東海と静岡県の対立で未着工になっている静岡工区(8.9km)が、この井川本村の集落の先の赤石岳と塩見岳に間にあるのだ。あの映画『大鹿村騒動記』(2011、監督:坂本順治、主演:原田芳雄)の舞台は、この静岡工区のとなりの長野県にある。
さて、展示館から戻ってきた3人と合流、15時30分の最終トロッコに乗る。3月13日のダイヤ改正で、千頭~井川は1日2便になっている。井川線の奥泉駅で降り、バスで寸又峡温泉にいよいよ向かう。 (この項つづく)
参考サイト:
https://www.nacsj.or.jp/2022/03/29400/
https://toyokeizai.net/articles/-/468549?display=b