(15)桂川潤さんのこと
[2021/12/4]

いよいよ来週の8日には、「港の人」の上野勇治さんが『新宿書房往来記』の見本を持って、鎌倉からここ新宿書房の事務所にやってくる。発売は15日という。これに先立って6日の月曜日より東京・神田神保町の東京堂書店では、本書の刊行を記念して、ブックフェア「新宿書房祭」が開催される。

2021年、コロナ禍のなかで私たちを驚かせたのは、桂川潤さんの突然の逝去だ。7月22日の新宿書房のHP内で以下のような訃報を書いた。

装丁家の桂川潤さんが7月5日に亡くなった。享年62。
新宿書房では、「宇江敏勝の本 第2期 1~6巻」(2004~2008)のほか、『火山灰地』(久保栄著、2004)、『ゆの字ものがたり』(田村義也著、2007)、『老いも楽し』(酒見綾子著、2010)など、たくさんの本の装丁をしていただいた。つい先日の5月にも元気な様子で九段の事務所にひょっこり顔を出されたというのに。
7月11日の新聞各紙の訃報欄に、桂川潤さんの死亡記事が載った。毎週のように装丁された書籍が出版され、昨今では年間120点!トータルで2500点!!を超える仕事を、たったひとりでこなしてきた。私はこの訃報の載った新聞を見る前に、小林祥一郎さん(1928~)からの朝一番の電話をもらい、桂川さんの死を知った。自著『死ぬまで編集者気分――新日本文学会・平凡社・マイクロソフト』(2012)を桂川さんに装丁してもらった小林さんは、新聞をみてびっくりしたという。小林さんは桂川潤さんの父親で、戦後のアヴァンギャルド運動に関わり、ルポルタージュ絵画に足跡を残した画家の桂川寛(1924~2011)さんのことも、雑誌『新日本文学』などを通してよく知っていた。

桂川さんはクリスチャン(立教大学文学部キリスト教学科卒)である。それ故か、「いのちのことば社」をはじめ、多くのキリスト系出版社の書籍の装丁も手がけられていた。『キリスト新聞』(キリ新)の訃報欄は一般紙よりもすこし詳しい。このサイトの下にWEBラジオ「本とこラジオ」が掲示されている。2021年3月17日放送の番組のゲストのひとりが桂川さんだ。「本とこラジオ」は装丁家の矢萩多聞とデザイナーのいわながさとこの二人をパーソナリティにして、ほぼ隔週木曜日午後に放送されているという。亡くなる5ヶ月前のこの日、出演した桂川さんは饒舌にデザイナー自分史を回顧し、自らの病歴(2005年の脊髄腫瘍とその後の双極性障害)も明るく正直に語っている。みなさん、ぜひこの「本とこラジオ」を見て、聴いてほしい。

今回出版される『新宿書房往来記』の巻末には「新宿書房刊行書籍一覧1970-2020」が収録されている。ここには、桂川潤さんが手がけてくれた書籍がたくさんある。
最初の本は2003年の『田村義也――編集現場の115人の回想』(非売品)。これから2012年の『サンドラ、またはエスのバラード』(カンニ・メッレル著、菱木晃子訳)までの19冊である。これらの中には、『僕の二人のおじさん、藤田嗣治と小山内薫』(蘆原英了著、2007)、『見残しの塔』(久木綾子著、2008年)、『禊の塔』(久木綾子著、2010年)、『わたしの中の遠い夏』(アニカ・トール著、菱木晃子訳、2011)などの本もある。

末沢寧史(すえざわ・やすふみ、1981~)さんという編集者が主宰する「本のヌード展」という催しがある。直近では「本のヌード展」(富山市立図書館、2021年10月21日~11月30日) が開催された。同展については『朝日新聞』「天声人語」(11月20日)でも取り上げた。これは本からカバーを外し、裸の表紙(ヌード)を見せて、そのギャップを楽しむ展示だ。富山の「本のヌード展」には「桂川潤さん 平野甲賀さん 追悼コーナー」もあったという。

そこで、最後に桂川潤さんを追悼し、彼の師・田村義也(1923~2003)さんとのコラボ、新宿書房版・駅前「本のヌード劇場」桂川・田村特別興行を公開しよう。普段はカバーに包まれ、あまり目にしない本表紙(ヌード)をご覧ください。


装丁=桂川潤



装丁=田村義也