(18)新宿書房祭はさらに続く
[2021/12/24]

出版界の専門紙『新文化』(週刊)の第3397号(2021年12月16日号)が送られてきた。同号の最終面には、先日同紙から受けたインタビューが〈「新宿書房」設立50年の歩み 村山恒夫代表に聞く〉として掲載されている。そして、記事の最後に『新宿書房往来記』(港の人)の刊行とこれを記念した「新宿書房祭」が東京堂書店で開催中との記事が写真とともに紹介されている。

いくつかの新聞からの問い合わせがあり、22日には東京・日比谷で、ある新聞社文化部の記者からインタビューを受けた。

神田神保町の東京堂書店で開催中の、『新宿書房往来記』刊行記念の「新宿書房祭」はいよいよ第3週に突入した。書店の石井さんが、年内は12月31日まで、新年は1月4日から17日まで開催します、と伝えてきてくれた。21日には石井さんから新たにメールがあった。「『新宿書房往来記』は今週のランキングで1位に入りました」。なんと、第1位だと。それからまもなく、「東京堂、週間1位になっています!  岩波 杉田」と、岩波書店の編集者の杉田守康さんから、証拠写真が送られてきた。間違いない、ほんとうに1位だ。

『新宿書房往来記』を手にした読者から、港の人へあるいは私の方に、いろいろな感想が寄せられてきている。その中から、『海女たちの四季――白間津・房総半島海浜のむらから』(田仲のよ著、加藤雅毅編、1983)の編者、加藤雅毅さんの奥様の加藤久子さんからいただいた文章を、久子さんの了承を得て、ここに紹介させていただく。

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村山恒夫様

この度は『新宿書房往来記』のご出版、おめでとうございます。
「港の人」からご著書が届き、一気に読み終えました。
早々に『海女たちの四季――白間津・房総半島海浜のむらから』(1983)が登場し、胸の高まりを抑えながら何度も読み返しました。加藤雅毅(1936~99)が目の前に現れたようでした。田仲のよさん(1922~96)の文章も加藤が聞き取りしながら書いたものでした。携帯電話のないころ家の電話を独占して、のよさんに長時間、確認しながら深夜まで書き進めていた様子が昨日のように思い出します。
出版ニュース社の清田義昭氏を通し、村山さんにバトンタッチされた幸運がすべての始まりだったと、改めて思い知らされました。しかも村山さんをして「私はこの惹句に負けた」と言わしめるなんて、幸せ者以外の何物でもありません。重ねて新版(『海女たちの四季――房総海女の自叙伝』、2001)刊行までして頂いたのですから。
のよさんのご葬儀の日、突然の弔辞依頼に加藤は式場外で、あの言葉を書き綴っていました。葬儀会場で耳にしたとき私はひどく感動し、それを村山さんが新版本で「田仲のよさんへの弔辞」として、残して下さったのでした。

もうひとり、『噂の眞相』の岡留安則さん(1947~2019)の頁にも、心が乱れました。評論家、青地晨氏の紹介で、岡留さんに会ったのが1970年代後半でした。日韓癒着など小さなレポートを書いた私を青地さんが、岡留さんに仲介したのです。とはいえ当時岡留さんは『マスコミ評論』という雑誌の編集長の職を、共同経営者との編集方針対立で、追放されていました。
彼は『噂の眞相』の構想を熱く語り、まもなくの1979年に創刊、反権力とスキャンダルを編集方針に血みどろの戦いの末、黒字休刊で沖縄に移住したことは周知の事実です。
ご存知のように私はすでに沖縄で字誌(あざし)の仕事をしていましたので、彼の『「噂の眞相」25年戦記』(集英社新書、2005)の書評を『沖縄タイムス』に紹介。岡留さんはその後那覇市で酒場を経営しながら、果敢に発言、執筆した燃えつくした生涯でした。

そしてお伝えしたいのが、加藤の七回忌の折に同席して頂いた大門千春氏(元集英社ジャンプコミック出版編集部長)のことです。定年退職した後も、同社の校正の仕事などを続けておられます。その大門氏が今月12日に東京堂書店に立ち寄った際、「新宿書房の本を集めてみた!」企画展(新宿書房祭)に出会い、村山さんの新刊を手にするとすぐに『海女たちの四季』のことが目に飛び込んできたと。そして大門さんは二冊購入し、その一冊を「是非お手元に」と私に送ってきてくださったのです。
大門さんは「村山氏が手がけた『海女たちの四季』」が好きで、多忙な頃から昼休みに神田の古書店で同書を見つけると買い求め、知人に送っていたそうです。

この本は加藤のことばかりでなく、村山さんが真摯に対峙してこられた40余年の歳月を記録した、私に大きな勇気を与えてくれる大切な一冊になりました。ありがとうございました。

加藤久子*

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この文章を読んで、私ものよさんと雅毅さんの愉快なやりとりを想い出した。それにしても久子さんと岡留さんとの出会いには驚いた。


『海女たちの四季』新版p 259より

*加藤久子(法政大学沖縄文化研究所国内研究員)
著書:
『糸満アンマー』〈海人の妻たちの労働と生活〉(おきなわ文庫50)、ひるぎ社、1990年
『海の狩人沖縄漁民――糸満ウミンチュの歴史と生活誌』現代書館、2012年(沖縄タイムス出版文化賞正賞受賞)
『海に生きる島に祈る―沖縄の祭祀・移民・戦争をたどる―』ボーダーインク、2020年
1998年から約10年、沖縄県浦添市の『小湾(こわん)字誌』(写真集・記録集・戦中戦後編の三部編)の編集執筆に関わる。