(8)地とひと、格闘する祭り、大震災に始まる風景
[2021/10/15]

今週はふたつの写真展、新しい写真集についてご紹介しよう。

地とひと、格闘する祭り
写真集『骨の髄』(2020年3月)の著者・甲斐啓二郎さんから、ふたつの写真展の知らせが届いた。『骨の髄』は、写真集が第20回さがみはら写真賞を受賞、2021年同写真展にて、第45回伊奈信男賞を受賞している。
まず、グループ展の「地とひとThis is Our Land 橋本照嵩・山縣勉・甲斐啓二郎 写真展」(2021年10月22日〜11月20日、東京六本木・Zen Foto Gallery)だ。新潟の長岡や高田の盲目の遊芸人・瞽女(ごぜ)とともにつづけた旅(橋本照嵩)、病に打ち勝つために秋田県の玉川温泉で岩盤浴をする人々との出会い(山縣勉)、長野県野沢温泉の道祖神祭りの「火付け」を撮影した「手負いの熊」(甲斐啓二郎)、の3部構成だ。いずれも磁場のような強力な力をもつ場所(トポス)に立つ人々が活写される。
次は、「甲斐啓二郎|写真展 格闘する祭り−呼応する身体−」(2021年11月30日〜2022年1月30日、長野県野沢温泉村・高野辰之記念「おぼろ月夜の館 斑山文庫」)。今回の展示は、長野県野沢温泉の道祖神祭りで〈火付け〉を撮影した「手負いの熊」、秋田県美郷町六郷のカマクラ祭りの〈竹うち〉を撮影した「骨の髄」、全国のはだか祭りを撮影した「綺羅の晴れ着」の3部構成となる。
今年1月の「野沢温泉の道祖神祭り」は新型コロナウイルス感染防止のため、中止となった。今回の写真展の会期中に行われる来年の「道祖神祭り」は、果たしてどうなるのだろうか。
最後に会場の名称にある「高野辰之記念おぼろ月夜の館 斑山文庫」の高野辰之について。高野辰之(1876〜1947)は長野県下水内(しもみのち)郡永田村(現・中野市永江)生まれの国文学者、作詞家。号は斑山(はんざん)。尋常小学唱歌の『故郷(ふるさと)』『春の小川』『春が来た』『朧月夜(おぼろづきよ)』などの作詞者としても知られる。故郷には高野辰之記念館がある。

   
展覧会のちらし


手負いの熊


骨の髄


綺羅の晴れ着(提供=甲斐啓二郎)

『大震災に始まる風景――東北の10年を撮り続けて、思うこと』
編集グループSUREから、写真家・稲宮康人(いなみや・やすと)さんの『大震災に始まる風景――東北の10年を撮り続けて、思うこと』が送られてきた。A5判並製224頁。カバー写真はカラー、本文写真はモノクロ。
稲宮さんは2011年3月11日の東日本大震災から、現在に至るまでの10年間、岩手・宮城・福島の被災地に4×5(シノゴ)の大判カメラを担いで、現地の風景を撮ってきた。 本書は、これら100枚を超える写真を見ながら、稲宮さんとSURE編集部が語り合った記録である。聞き手は、黒川創(司会)、中尾ハジメ、北沢街子、瀧口夕美。

本書p 12〜13(2021年3月)と奥付(2021年6月)のある同じ場所の写真が印象的だ。福島県双葉郡双葉町長塚の住宅と駐車している車。10年の時間が止まったかのようだが、よく見ると、車(ボルボ)の塗装は剥げ、タイヤはパンクし、ボンネットの隙間からは蔓草が生え、絡まっている。
ところで本書にはなぜか、写真家・稲宮康人の経歴が収録されてない。実は、稲宮さんは、2021年の春に、稲宮康人写真展「東北の10年――土地を聞く、風景を積む」を開いている。この写真展の終了直後にSUREでの収録があったことがわかる。またこのサイトから、稲宮さんのプロフィールや撮影風景を知ることができる。そして、2019年の10月から12月に東京・上野で「編集グループSURE連続イベント@古書ほうろう2019」 が開かれ、その第3回には、写真家・稲宮康人さんによるトーク「海外神社跡地を撮り、歩く」があった。
稲宮さんは2015年2月に『「大東亜共栄圏」の輪郭をめぐる旅――海外神社を撮る』という本を編集グループSUREから出版している。戦時期に日本国家がアジア・南洋の諸地域に建設した神社の跡地を辿る旅だ。
そうか、編集グループSUREの本の多くは、寺子屋スタイルの小さな勉強会やトークイベントから生まれる、この稲宮さんの本もそうして生まれた本なのだ。稲宮さんとの共同作業は続いている。そして、黒川さんは〈外地〉(がいち)への関心はいまも衰えない。


「大東亜共栄圏」の輪郭をめぐる旅――海外神社を撮る』表紙