(27)『新宿書房往来記』書評遊覧記
[2022/3/5]

『新宿書房往来記』(港の人)への書評・紹介が少したまったので、ここに紹介する。

『夕刊フジ』2月12日号 見出し:「本づくり50年の誇り」。評者(不明)は人と人、人と物やことをつなげる「媒介物=“メディウム”」という言葉を紹介する。良い本が作られる過程で、このメディウム効果が最大限に発揮されるという。「誠実な本づくりをする小出版社たちが、日本の出版文化を下支えしてきた」と。褒めすぎだが、うれしい言葉だ。
共同通信配信『南日本新聞』(鹿児島県)2月20日、『信濃毎日新聞』(長野県)2月26日。見出し:「冒険に満ちた編集現場」(『南日本新聞』)、「小さな冒険が続く本作りの日々」(『信濃毎日新聞』)。評者は現代書館の編集者・原島康晴さん。編集者の目線が次々と引用箇所を照らし出す。「本作りの現場で出会った人びとの個性ややりとりもたまらなく面白い。まるで見慣れた山を未踏のルートで登るような、楽しげで、小さな冒険に満ちた編集者の日常が見える。」なかなかうまい。

◆メールマガジン「日本の古本屋」「自著を語る」村山恒夫「周縁(マージナル)、路上(オン・ザ・ロード)から生まれた本たち」
配信は2月25日。このメルマガの配信数は、約21万人という。これはサイト内に進んでお読みください。
『週刊読書人』2月25日号
見出し:「本づくりに明滅する人の群れ 新宿書房五〇年のクロニクルの輝き」。三浦衛さんは春風社の社長であり編集者。まず、「ほれぼれする本だ」と、表紙カバーの木版画の解説から入る。そして、各所に著者の蘊蓄が次々と披露される。さすがだ。

ある人はこの三浦さんの書評を読んでこんな感想を寄せてきた。

書評、拝見しました。(中略)新宿書房というブドウの「房」にブドウの実が8、いや装丁と巻末を加えると10個の実がついていますかね。みな思い思いに、好きな実を採って食べ、その実の美味しさを語り、そこからそれぞれの方が羽を伸ばして、あのこと、このことを語られる。(中略)みなその美味しさに酔いしれて、花をさかせていく様は、まるで「新宿書房祭り」です(笑)

三浦さんは、このうち「田村義也の実」を採ってくれ、弟の田村明などのファミリーヒストリーを開陳していく。
そこで、田村義也研究にとって大切な資料の一つを紹介したい。それはコラム「三栄町路地裏だより50」「〈敗北をだきしめた〉ある家族」(2003年3月12日)だ。
アメリカの週刊誌(『サタデー・イブニング・ポスト』)の記者による田村家訪問記である。掲載は1945年11月24日号というから、同年8月の日本敗戦後から半年もたってないこの時期に、日本の知米派の家族を探し出し、訪問取材するという、当時のアメリカの情報力に驚かされる。
三浦さんは最後にこう書評を結ばれている。「巻末の[新宿書房刊行一覧 1970-2020]もていねいなつくりになっており、それを見ると、装丁家にして、昨年7月に惜しくも亡くなった我が畏友・桂川潤装丁の本が、数えたら20冊あった。」
桂川潤さん、田村学校の級長。わたしもこのコラム(15)で彼のことを書いた。
◆フリーマガジン『海の近く』
「本の海に漕ぎ出そう」(第40回、鎌倉の出版社「港の人」の本だより)。今回は『新宿書房往来記』を紹介していただいた。執筆者は上野夫人のようだ。当たり前なことではあるが、版元に愛される本はほんとうに幸せだ。「辺境を見つめ続ける新宿書房のような小さな出版社たちが、出版文化の広がりと深みをつくってきた」。結びの言葉だ。