(75)人生の拾い物
[2023/3/4]

夕暮れ時、小さな散歩に行く。コースは朝の散歩と同じだ。雲ひとつない茜色に染まった西の空。その反対のまだ明るい東の空、わが中野区上空を「羽田新飛行ルート」に乗った旅客機が、ふたてに別れてほぼ同時に次々と降りてくる。お役所の説明だと「南風時の15時から19時のうち3時間の運用を基本に、1時間当たり最大44機の旅客機が上空約915~1040mを飛行する」という。 本当に44機かと思うほど、途切れることなく大きなお腹を見せながら旅客機がやってくる。


飛行ルート

今日のゴミの収穫は、近づく「5類」の声に押されたのだろうか、マスクが5枚も。軍手、ビニール袋で慎重に回収する。
家に帰ると、たいへんな拾いものがあった。土曜日18時から始まる『人生の楽園』(テレビ朝日系)は、私が毎週楽しみにしている番組だ。なんとこの日の主役は知り合いだったのだ。それも彼とはコロナを挟んで4年ぶりの再会となった。本日のタイトルは「図書室のある焼き芋屋さん」。
舞台は石川県金沢市だ。実は前の週の番組最後に流れる次週予告を見て、この眉毛、この笑顔、どこかで見たことあるな、しかし、思い出せない。これが最近の私の頭の調子だ。ずっと気になっていて放送前日に番組をチェックすると、やはり彼だった。
金岩(かないわ)宏二(77歳)さん、山木美恵子(63歳)のご夫妻だ。金岩さんは、2021年の春まで出版社の現代書館の名物・営業部長、いつも元気で素晴らしい笑顔をもつ「ハレオトコ」だった。金岩さんとは出版社同士の会合でもよく会った。奥さんの山木美恵子さんは自然食通信社の編集者だったらしい。現代書館とは、いろいろご縁のある会社で、九段下にあった新宿書房の部屋にずっと一緒にいて、日常雑務や組版作業などをやってくれていた原島康晴(エディマン)さんは、同じ2021年1月から編集者として入社している。


テレビ朝日の番宣から

金岩さんは金沢市出身。山木さんは富山市出身。ある時、ふたりは、これからの人生を考える。そうだふたりに縁のある北陸、金沢に帰ろう。2021年の秋に金沢市内、それも犀川のほとり、金岩さんの中学の母校近くに見つけた築60年の5DKの家を買う。東京の賃貸マンションの家賃数年分だった。これをリノベしておよそ1年後の2022年11月に、「図書室のある焼き芋屋 ハレオトコ」をオープンする。焼き芋は、Lサイズ370円からおちびちゃん100円までの5種類がある。
玄関横にある6畳の図書室には、おふたりが関係した本を中心に1500冊の本が書棚に収まっている。お客さんはこの図書室で、コーヒーや焼き芋のポタージュを飲みながら本を読むこともできる。本の貸し出しもあるようだ。これらの本はふたりの東京からのお土産だ。それぞれ1冊1冊には本が誕生するまでのたくさんの話が詰まっている。そのことを話せば、それは地元の人へのふたりの自己紹介にもなる。 棚の隅には美恵子さんが自費出版した『ハレオトコ、ふるさとに帰る』(2021年5月刊)も置かれている。この写真集は彼らが東京から金沢に移転してきた記録となる。美恵子さん、さすが編集者だ、手早い。
店の売りのサツマイモは近くの内灘(あの内灘闘争の町だ)の農家が熟成させたものだ。この農家も知り合いから紹介されて、親しくなる。すべて「芋づる式に」(これは美恵子さんのことば)に交友の輪が広がってきた。
カフェ「ハレオトコ」の営業は週4日、土・日・水・木の午前10時から午後5時まで。看板の似顔絵も焼き芋の包装袋の絵も、みな美恵子さんの手になる。自宅の一部を開放する(「住み開き」というそうだ)、小さなかカフェの、ほんとうに小商いだ。ふたりは、商売よりも、このゆったりとした近所の人々との交わりを心から楽しんでいる。
3月2日の『朝日新聞』の「TVランキング」を見た。2月20日~26日までランキングでこの『人生の楽園』「図書室のある焼き芋屋さん」はベスト20の18位(10.4%)に入っていた。これもうれしい拾いものだ。

金岩さん、美恵子さん。いつまでもお元気で。暑くなる時期に何を売るか、何も考えてないという。その心意気がいい!(西田敏行の口調で)「この焼き芋、食いてー」