(66)ゴミ拾い逍遥
[2022/12/24]

今朝も6時に家を出る。空は雲ひとつない。ここ中野区はいま零下1度とある。まず、西中野児童館の庭を横切り、南に向かう路地を進む。右手に古い門のある大きな家がある。ここには相沢事件の主人公、相沢三郎中佐が住んでいた。1937年7月3日に死刑執行された相沢中佐の告別式はこの鷺宮の家で行われたという。当時(昭和12年)このあたりはどのような風景だったのだろうか。相沢宅のすぐ北側には西武鉄道(高田馬場~東村山)が走っている。相沢中佐はここから電車が走る風景を見ていたに違いない。しかし、踏切横にあった「西鷺宮駅」(1942年開業、1944年に閉鎖)は当時まだなかった。

相沢宅を右に曲がり、いつもの道順に出る。妙正寺川の橋まで行き、上流に向かう川沿いの道を歩く。道すがら、この冬初めての霜柱を発見する。踏みつけるとサクサクッと音がする。わたしは両手に軍手をはめ、左手にはビニール袋を持つ。これが散歩姿の定番だ。今年の春に両膝関節の人工膝関節置換術(両膝全置換術)を施術し、退院してから毎朝の歩行訓練として、この朝の散歩は大切なルーティンになっている。すでに街路樹の落葉は終わり、落ち葉が風で下の川岸の両側にきれいに吹き寄せられている。

実は、朝の散歩を始めてから、「小さなゴミ拾い」をしている。自宅周辺はお店もなく、まったくの住宅地。だから、落ちているゴミは少ない。どこでも同じだろうがゴミの収集については、清掃事務所と地域との取り決めは明快だ。「燃やすゴミ」「プラスチック製容器包装」は各戸前(あるいはゴミ集積所)、びん・缶・ペットボトルと古紙は集積所と、置く場所も曜日も決められている。集積所周辺に撒き散らされたゴミ(カラスくん、ご苦労様)のお世話は周辺住民にまかせよう。金属・書籍が目当ての自転車でまわるおじさんが荒らした書籍の梱包の解かれたヒモなども、まあ仕方がない。問題は人家のない道や空き家(これが多い!)の前に捨てられているゴミだ。ゴミのことは前から気になっていたが、ある朝から限定したゴミ拾いを始めることにした。街路に植栽されたドウダンツツジやカンツバキなどの中に隠れているゴミにも要注意だ。
さて、どんなものが落ちているのか。

タバコの吸い殻(喫煙所の設置や電子タバコの出現で前より少なくなったかな)
テッシュ(と外装フィルム)
マスク(と包装ケース。これはコロナ時代の産物だろう。いま一番の出物)
空き缶(ビール、コーヒーなど)
紙コップ(コーヒーなど)
アイスキャンディの棒
ペットボトル(とそのフタ)
バーガー袋(紙製ストロー、木製スプーン・フォーク・ナイフ・マドラー)
ピザの箱
お菓子のカラ袋
レジ袋とビニール袋(あるいはゴミの入ったレジ袋)
レシート(スーパー・コンビニ)
駐車料金レシート
ゼムクリップ
ハンカチや小さなタオル
小銭(カード支払いや電子マネーで最近は少なくなった?)
片方の手袋
犬の糞(意外に多い)
新聞紙(八つ折りにされているので犬の糞回収用か)

およそ1500メートルの散歩。家に帰ると小さな袋にはいろいろなものが入っている。今日の回収物はマスクの包装紙、赤いタオル、お菓子のカラ袋と少ない。

6時半から始まるラジオ体操を終えてやってくる二人連れの女性たちとはもう顔なじみだ。ひとりはビニール袋を、ひとりはトングをもって、仲良く話しながらゴミ拾いをして行く。彼女らの姿をみて、私は対岸の道を歩く。ずいぶん前だが、名古屋地方の男性がジョギングをしながら片手にトング、片手に一輪車を引いて、ポンポンとゴミを拾い、疾走している姿をテレビで見て驚いたことがあった。今回、「プロギング」というゴミ拾いをするスポーツがあることを知った。その団体のHPによれば、こんな説明がされている。「プロギング(plogging)はジョギングしながらゴミを拾う新しいSDGsフィットネスです。スウェーデン語の「plocka upp(拾う)」と英語の「jogging(走る)」を合わせた造語で、スウェーデン人アスリートのエリック・アルストロム氏(Erik Ahlström)が自己ベストではなくゴミ拾いに専念したランニングとして2016年に始めました。その活動は瞬く間に世界中に広がり、今や世界100ヶ国以上で楽しまれる一大ブームとなっています。」
ゴミ拾いといえば、先日のカタールでのサッカー・ワールドカップでの日本人サポーターの試合後の行動が話題になっていたが、あるブログの「サポーターの試合会場ゴミ拾い小史」によれば、このゴミ拾いは1998年のフランス大会からはじまったという。

さて、最後に紹介したいのは、皓星社(こうせいしゃ)の「シリーズ紙礫(かみつぶて)」というアンソロジー(2015~2022)で、実に16冊も刊行されているのだ。このシリーズは「闇市」「街娼」「テロル」「変態」「路地」「女中」などと続いてきた。15冊目は『ゴミ探訪――私たちの社会のもう一つの姿〈ゴミ〉をめぐるアンソロジー』(編者:熊谷昭宏・日比嘉高、2021年)だ。日比嘉高解説「ゴミ文学史 序説」・熊谷昭宏「求められ嫌われる、曖昧で気になるものたちよ」の元に、幸田露伴、稲垣足穂、津島佑子などの15作品が並ぶ。
この本の発見は今回のゴミ拾い逍遥で一番の収穫であったが、自分の不勉強ぶりを回収することになってしまった。

参考サイト:
1)相沢事件
https://kotobank.jp/word/相沢事件-23678
2)「サポーターの試合会場ゴミ拾い小史」
https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/771....
3)江戸時代にあった、1000ものリサイクル屋
https://www.nihonbashi-gururi.tokyo/posts/column_02

参考文献:
破棄の文化誌――ゴミと資源のあいだ』(工作舎、旧版1994年、新装版2008年)
この名著も知らなかったとは、これまた恥ずかしいかぎり。