(16)「新宿書房祭」が始まり、『新宿書房往来記』がやってきた!
[2021/12/11]

今週は激動の日々となった。12月6日10時半過ぎ、神保町の「神田すずらん通り」に着いた。近くにあるサンマルクに入る。まもなく同僚の加納さんも着いて、二人でコーヒーを飲みながら、ここで11時になるのを待つことにする。
今日から東京堂書店神田神保町店で「新宿書房祭」が始まるのだ。在庫のあるものから130点を選び、300冊余りの本が並ぶことになる。開店の11時に合わせて、斜め前の東京堂書店に入る。左手の壁側、たくさんのサーカスの絵看板に飾られた書棚一面に新宿書房の本が並ぶ。壮観だ。一番上に横組みの大きな字で「新宿書房祭」のボード。最上段の棚には山の作家・宇江敏勝さんの本の表紙の顔が横一列に並ぶ。左手に短冊状のボード。上には港の人のシンボルマーク、その下に刊行記念の文字。そして縦書きに、右から「港の人 村山恒夫著 新宿書房往来記」と続く。実はまだこの本は新刊台には並べられていない。9日の午後には並ぶ予定だという。右奥の書棚の上には映画『七つの弾丸』の大きなポスターが掲げられている。富士川洋紙店の白石さんが、いつのまにか横に立っている。初日の一番にきてくれたのだ。彼にはずっと用紙のことでお世話になっている。「すごいですね、よかったですね」

しばらくの間「新宿書房祭」の展示と書棚に魅入っていたわれわれは、レジに行って、この祭を担当している石井さんを呼んでもらう。何回か電話で話をしてきた石井隆広さんには、実はこの日が初対面なのだ。この催事の企画、構想そして展示の資料集めはすべてこの石井さんの手になるものだ。ただ一つ、サーカスの絵看板の画像の一部については、コレクターでもある編集者・都築響一さんを紹介した。石井さんは新宿書房の本のことをじつによく知っている。映画『七つの弾丸』(東映東京、59)は村山新治監督作品だ。当然、『村山新治、上野発五時三五分』(新宿書房、2018)を読んでいる。このポスターの色調もサーカスの絵看板に合わせるような演出をしている。

さて水曜日8日の午後3時半、港の人の上野勇治さんが『新宿書房往来記』の見本の5冊を大事に抱えて来社。クラフト紙に5冊梱包された中の1冊を慎重に取り出す。おお、ついに新刊と対面できた。


カバー


本表紙

白いカバー用紙(トーンFGC)に黒い版画の絵。タイトルと著者名の文字だけは銀の箔押し。本表紙も白で同じく黒い版画。この版画は、ベラルーシ出身で、現在早稲田の大学院で日本のプロレタリア詩の研究者で版画家のmoineauさんという方の作品だという。すでに港の人の本では装画をいくつか担当されている。装丁は長田年伸さん。春風社の本などで、たくさんの仕事をされている。お二人とも私は知らない。すべて、港の人の上野さんのプロデュースなのだ。
カバー、本表紙の絵柄は素朴だが、インパクトがある。大きな川の両岸には、お互いに向こう岸に声を掛け合いながら、けっして対岸から交わることのない人々が畑を耕やしたり、動物を連れて歩いている。お互いに信じ合いながら、しかし頼ることなく自分の力で前へ前へと歩む。まるで本づくりをめざしている、われわれの仲間のようだ。黒い大きな川の流れ、人々と動物たちが花々の横を歩く、きびしい風土の中での暮らし・・・、わが往来記にふさわしい絵ではないか。

翌木曜日9日、大快晴の午後2時過ぎに、東京堂書店を再び訪問。サーカスの絵看板に囲まれながら、わが『新宿書房往来記』が新刊台に並んでいるはずだ。しかし、まだ本は来ていない。店内にある「Paper Back Café」でコーヒーを飲みながら、本の到着を待つことにした。そのうち、この日ここで待ち合わせをしていた教会の牧師の松元保羅さんと顔が合う。妻と義母が通う教会の松元牧師には、クリスチャンではない私も長い間ずいぶんお世話になっている。なんと牧師はわざわざ「新宿書房祭」と、この日にやってくる私の新刊を見にきてくれたのだ。だいぶ前に着いて、この東京堂書店の1階から3階までをくまなく回ってきたという。わたしたちは喫茶室でしばらく待つが、なかなか本は来ない。では今日はこれで帰ろう、その前にもう一回、「新宿書房祭」の書棚の下を通ることにした。なんと、あるではないか。わが新刊は色とりどりの本が並ぶ書棚の下で、クログロとまるで炭俵から取り出しだばかりの木炭のように蹲っている。書名と著者名が熾火のように、いや燻し銀(自分で言うか)のようだ。宇江敏勝さん、いい炭ができたよ。
さっそく、手に取ってみる。四六判上製、344頁の本、書店で持つとより重く感じる。1冊買って松元さんに進呈。すると彼は自分の息子に読ませると言って、1冊買ってくれた。

事務所に戻ると、モリモト印刷の井野さんから、メールあり。「先程、東京堂書店から『新宿書房往来紀』を入荷しましたと連絡があり購入いたしました。帰りの電車で読もうと思います。発売おめでとうございます」井野さん、予約をしておいてくれたのだ。また、勝手連の風行社の伊勢戸まゆみさんからも。「こちらは今、JRCで買ってきました」。JRCは港の人一手扱いの出版取次、風行社のすぐ近くにある。そして、解説を書いてくれた作家の黒川創さんにお礼と神保町のことをお話した。

こうして、わが『新宿書房往来記』は世に出た、旅立ちだ。みなさん、ありがとう。