(7)マンジョッカ、マカシェーラ
[2005/12/19]
6月下旬のある日、テレジーナに住む友人、ルイジンヤの兄のアドッキさんの農場へ遊びにいった。農場は、テレジーナの北に位置するピリピリという小さな街の近くにある。このあたりには、シチオと呼ばれる小さな農場がいくつもある。素敵な名前のついた、美しく手入れされたシチオもあれば、とりあえず土地を確保しただけに見えるシチオもある。
アドッキさんのシチオには、まだ名前がなく、従って看板もない。3年前に土地を手に入れ、植樹をはじめたばかりだそうで、ココナツもオレンジもマンゴーも、まだとても背が低い。オレンジやマンゴーはともかく、ココナツが手の届く位置で実っているのは、とても不思議な光景だ。まるで、砂嵐がやってきて、背の高いココヤシの九割を地中に埋めてしまったかのように見える。他に、タンジェリーナ(みかん)、マラクジャ、カジュー(カシュー)などが植えられている。
なだらかな丘に囲まれた農場の地下は、ミネラルウオーターの宝庫だという。ポンプで汲みあげ、素焼きの壷のフィルターにかけた水は、本当に美味しかった。農場のシャワーの水は、もちろんミネラルウオーターだ。
農家の裏には、とうもろこし畑とフェイジャオン(豆)畑がある。いずれも収穫は終わっていて、畑はからからに枯れていた。フェイジャオンは白、緑、赤、そしてピーナツの4種類。一番の高級品は白豆だそうだ。野外にある台所では、アドッキさん自ら、つぶした豚肉を煮込んでいるところだった。土のかまどに、ババスと呼ばれる小さなココナツの実を焼いてつくった炭を入れ、火を起こす。お隣りのかまどの中をのぞくと、暖かくて居心地がいいのか、ニワトリが卵を産んでいた。豚は、血も一緒に煮込むのでとてもいい風味だ。
豆畑の反対側には、マンジョッカ(キャッサバ芋)畑があった。手前にはファリンヤをつくる設備が整っている。簡単な屋根があるだけの、家内ファリンヤ製造所で、カサ・ド・ファリンヤ(ファリンヤの家)という。ファリンヤとはマンジョッカを粉にしたもので、料理に添えたり、ふりかけたり、スープにとろみをつけたり、他の素材と一緒に炒めたりして食べる、オールマイティな食材だ。粉といっても、形の不揃いな粗挽きのものから、小麦粉のように細かいものまであり、その種類は数限りない。また、地方ごとに、独特のファリンヤがある。純白のタピオカ粉も、マンジョッカから作られるファリンヤのひとつで、ベイジューとよばれるパンケーキなどの素材だ。
マンジョッカは、収穫したものをそのまま煮て食べることもできる。また、煮たマンジョッカをさらに揚げて食べることもある。この地方では、朝食に、煮たり揚げたりしたマンジョッカがどっさり出てくることがある。朝食だから、もちろんコーヒーにマンジョッカ、だ。アドッキさんたちは、マンジョッカを煮たものをマカシェーラと呼んでいた。マンジョッカもマカシェーラも同じキャッサバ芋だが、ちょっと種類が違うらしい。マンジョッカはファリンヤ向け、マカシェーラは、そのまま煮て食べるのに適しているとのことだ。
アドッキさんが、マンジョッカを掘るというのでついていった。マンジョッカは植えてから8ヶ月で収穫できるそうだ。水まきも3日おきでいいという。ブラジル北東部では、いつでも植えられ、いつでも収穫できるという。さとうきびと同じだ。
マンジョッカはたった8ヶ月で3メートルもの高さに成長する。芋というより樹木だ。幹も枝も直径3センチくらいある。まずは、地中から四方八方に伸びている邪魔な幹を切り落とし、残した幹を掴んでひっぱるのだが、これがなかなか地中から出てこない。そこで、鉄の棒と素焼きのブロックを使って、てこの要領で掘り起こす。現れたのは人間の足ほどの太さに成長した芋の束だ。
マンジョッカの収穫
洗ったマンジョッカ
収穫したマンジョッカは、よく洗い、まず皮をむく。この皮は家畜のエサになるという。皮をむいたマンジョッカは、電動の専用削り器で細かく削る。削ったマンジョッカは古タイヤを利用した桶に入れ、水を加え、よく洗い、沈澱させる。その後、ヤシの葉を編んだ籠にいれ、木製のプレス器で圧搾する。圧搾したファリンヤは、日光ですっかり乾かした後、直火で熱した大きな鉄板の上で、木製のしゃもじを使ってよく炒り、冷ませばできあがり。
削ったマンジョッカは水に浸けてふやかした後この籠に入れて圧搾
ファリンヤを炒る鉄板
私は、粒の不揃いな、香ばしい、カチカチのファリンヤが好きだ。これを煮込み料理と一緒に食べると、とても美味しい。固いファリンヤを齧っていると、顎も歯も鍛えられるような気がする。お茶漬けに入れる「あられ」のもっと固めのもの、といったら想像がつくだろうか。
MPB(ブラジリアンポピュラーミュージック)のミュージシャン、ジャヴァンの「ファリンヤ」という歌に、「ファリンヤはノルデスチーノの血の中に」という一節があるが、まさにノルデスチ(ブラジル北東部)の食は、ファリンヤ、つまりのところマンジョッカではじまり、マンジョッカで終わる。
アドッキさんのシチオには、まだ名前がなく、従って看板もない。3年前に土地を手に入れ、植樹をはじめたばかりだそうで、ココナツもオレンジもマンゴーも、まだとても背が低い。オレンジやマンゴーはともかく、ココナツが手の届く位置で実っているのは、とても不思議な光景だ。まるで、砂嵐がやってきて、背の高いココヤシの九割を地中に埋めてしまったかのように見える。他に、タンジェリーナ(みかん)、マラクジャ、カジュー(カシュー)などが植えられている。
なだらかな丘に囲まれた農場の地下は、ミネラルウオーターの宝庫だという。ポンプで汲みあげ、素焼きの壷のフィルターにかけた水は、本当に美味しかった。農場のシャワーの水は、もちろんミネラルウオーターだ。
農家の裏には、とうもろこし畑とフェイジャオン(豆)畑がある。いずれも収穫は終わっていて、畑はからからに枯れていた。フェイジャオンは白、緑、赤、そしてピーナツの4種類。一番の高級品は白豆だそうだ。野外にある台所では、アドッキさん自ら、つぶした豚肉を煮込んでいるところだった。土のかまどに、ババスと呼ばれる小さなココナツの実を焼いてつくった炭を入れ、火を起こす。お隣りのかまどの中をのぞくと、暖かくて居心地がいいのか、ニワトリが卵を産んでいた。豚は、血も一緒に煮込むのでとてもいい風味だ。
豆畑の反対側には、マンジョッカ(キャッサバ芋)畑があった。手前にはファリンヤをつくる設備が整っている。簡単な屋根があるだけの、家内ファリンヤ製造所で、カサ・ド・ファリンヤ(ファリンヤの家)という。ファリンヤとはマンジョッカを粉にしたもので、料理に添えたり、ふりかけたり、スープにとろみをつけたり、他の素材と一緒に炒めたりして食べる、オールマイティな食材だ。粉といっても、形の不揃いな粗挽きのものから、小麦粉のように細かいものまであり、その種類は数限りない。また、地方ごとに、独特のファリンヤがある。純白のタピオカ粉も、マンジョッカから作られるファリンヤのひとつで、ベイジューとよばれるパンケーキなどの素材だ。
マンジョッカは、収穫したものをそのまま煮て食べることもできる。また、煮たマンジョッカをさらに揚げて食べることもある。この地方では、朝食に、煮たり揚げたりしたマンジョッカがどっさり出てくることがある。朝食だから、もちろんコーヒーにマンジョッカ、だ。アドッキさんたちは、マンジョッカを煮たものをマカシェーラと呼んでいた。マンジョッカもマカシェーラも同じキャッサバ芋だが、ちょっと種類が違うらしい。マンジョッカはファリンヤ向け、マカシェーラは、そのまま煮て食べるのに適しているとのことだ。
アドッキさんが、マンジョッカを掘るというのでついていった。マンジョッカは植えてから8ヶ月で収穫できるそうだ。水まきも3日おきでいいという。ブラジル北東部では、いつでも植えられ、いつでも収穫できるという。さとうきびと同じだ。
マンジョッカはたった8ヶ月で3メートルもの高さに成長する。芋というより樹木だ。幹も枝も直径3センチくらいある。まずは、地中から四方八方に伸びている邪魔な幹を切り落とし、残した幹を掴んでひっぱるのだが、これがなかなか地中から出てこない。そこで、鉄の棒と素焼きのブロックを使って、てこの要領で掘り起こす。現れたのは人間の足ほどの太さに成長した芋の束だ。
マンジョッカの収穫
洗ったマンジョッカ
削ったマンジョッカは水に浸けてふやかした後この籠に入れて圧搾
ファリンヤを炒る鉄板
MPB(ブラジリアンポピュラーミュージック)のミュージシャン、ジャヴァンの「ファリンヤ」という歌に、「ファリンヤはノルデスチーノの血の中に」という一節があるが、まさにノルデスチ(ブラジル北東部)の食は、ファリンヤ、つまりのところマンジョッカではじまり、マンジョッカで終わる。