(71)『宇江敏勝 民俗伝奇小説集 索引事典』
[2020/5/15]

いま、「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」の第10巻、最終巻の編集を進めている。先日、作家の宇江俊勝(うえ・としかつ1937〜)さんから送られてきた最新の書き下ろし原稿のひとつを自宅で読んでいるところだ。この「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」は全10巻の構想のもと、「3・11」 の2011年から毎年1冊を刊行してきた。装丁は鈴木一誌さん。
このシリーズは宇江さんの秀作ノンフィクション作品群をまとめた「宇江敏勝の本」(第一期全6巻/装丁=田村義也、第二期全6巻/装丁=桂川潤)の完結を受け、宇江さんがあらたに書き下ろす、初めての小説シリーズだ。

「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」全10巻
1) 山人伝(2011)15篇 (現在品切)
2) 幽鬼伝(2012)9篇
3) 鹿笛(2013)6篇
4) 鬼の哭く山(2014)4篇
5) 黄金色の夜(2015)6篇
6) 流れ施餓鬼(2016)6篇
7) 熊野木遣節(2017)7篇
8) 呪い釘(2018)4篇
9) 牛鬼の滝(2019)5篇
10) タイトル未定(2020)

いよいよ、最終巻にやってきた。このシリーズ、第7巻の『熊野木遣節』から8pの月報を投げ込む(挟む)ことが始まった。
新宿書房での宇江さんの最初の本、エッセイ集『山に棲むなり』(1983)以来ずっと宇江さんの編集・校正担当者として伴走してきてくれた室野井洋子(むろのい・ようこ)さんが、2017年の7月に突然亡くなった。享年58。その年の4月、いつものように和歌山の中辺路にある、宇江さんのお宅での編集会議のために札幌から駆けつけてくれた室野井さん。彼女はこの編集途中の新刊を見ないで逝ってしまったのだ。本コラム(10)および(4)「追悼 室野井洋子」を参照。
その後『熊野木遣節』の編集が進んだところで、急遽これからの各巻に、宇江さんをよく知るさまざまな方に、宇江文学について語っていただく月報を作ろうということになった。もちろん、最初の月報では宇江さんに室野井さんへの追悼文を書いていただいた。

◆第7巻『熊野木遣節』月報目次
異色の作家・・・野添賢治*
山と人が織りなす宇江敏勝の文学・・・宇多滋樹
宇江敏勝という存在・・・大西咲子
追悼 編集人、室野井洋子・・・宇江敏勝
*秋田県能代市在住のノンフィクション作家・野添賢治さんは刊行の翌年, 2018年4月に亡くなった。

◆第8巻『呪い釘』月報目次
『山びとの記』四〇年・・・宮 一穂*
私にとっての紀伊半島、そして宇江文学・・・森 正
宇江先生との山旅日記・・・三瀬日出男
熊野の山・・・高原登紀子
*『山びとの記 木の国 果無山脈』(中公新書、1980)は宇江さんのデビュー作。宮さんは当時の編集担当者。

◆第9巻『牛鬼の滝』月報目次
酒と宇江さんと原郷の岸辺・・・石井遊佳*
熊野に住む人、参る人・・・直木美穂子
山の暮らしを慈しみ・・・石井 晃
山の人生・宇江敏勝さんの小説世界・・・西世賢寿
*芥川賞作家。石井さんのお母さんは宇江さんの中高時代の同級生。

いま、最終巻、第10巻の編集を進めるかたわら、「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」完結に際し、これを記念する企画がないものかと考えている。民俗伝奇小説集総合カタログ、別冊「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」案内、全書評集、全巻解説集、などなど……。
では、『宇江敏勝 民俗伝奇小説集 索引事典』はどうだろう。
この民俗伝奇小説集全10巻から次の項目などをひろう。項目によっては数行の説明もつける。イラストや写真、図版もあってもいい。
動物 植物 人物 生活・習俗・行事 神社仏閣 地名(実在の自然・行政、架空) 山の仕事 伝奇事象(妖怪) ・・・
そして、作品に出てくる関係地名を落とした地図を付録につける。実在と仮名の地名が混在し、各作品にリンクする不思議な地図となる。この索引事典は「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」への便利なガイドブックとなるばかりか、山奥深い宇江文学山脈への足がかり、招待状にもなる。
しかし、時間もかかりそうだ。最終巻と同時刊行はとてもきびしいかもしれない。でも、いまは夢をみている。