俳優の領分
[毎日新聞 2007年7月31日夕刊]
「現代を映す劇場」より
2000年に急逝した劇作家・演出家の如月小春の「俳優の領分─中村伸郎と昭和の劇作家たち」(新宿書房)が、七回忌の昨年末に出版された。如月は「NOISE」を率い、新しい舞台表現を果敢に試みながら、各地のワークショップに積極的に取り組み、評論活動でも優れていた。「俳優の領分」は、91年に没した俳優の中村伸郎へのロングインタビューを縦軸にして、昭和の劇作家について論及した労作である。中村は一般的には小津安二郎監督の映画、例えば「東京物語」「秋日和」などの常連俳優として知られた。あるいは、東京・渋谷の小劇場ジァンジャンで連続上演されたイヨネスコの「授業」も、話題を呼んだ舞台だった。この本では、小津、イヨネスコのほか、岸田國士、三島由紀夫、別役実らとの仕事を通して、昭和の「純粋演劇」の道を歩んだ新劇俳優、中村の軌跡を描いている。そのまま、昭和の演劇史の一断片となっているのが見事で、日本の近代・現代演劇の演技の在り方を考える上で、新鮮な考察にいくつも出合える。特に、「喜びの琴」事件で共に文学座を退座した三島、晩年に共同作業した別役との各章は、如月の明せきな分析が光る。改めて、彼女の早すぎる死が惜しまれる。(高橋豊)
[『シアターアーツ』 2007年春号.30号、晩成書房]
書評  評者=内野 儀
「俳優の領分──中村伸郎と昭和の劇作家たち」
著=如月小春(新宿書房)
 実に刺激的な書である。八〇年代小劇場演劇の旗手だった如月小春が、「渋い」と形容されることが多かった新劇俳優の中村伸郎について本を書いたというミスマッチが興味深いからではない。本書で如月は、中村伸郎を一応の対象として論考を進めているが、実際のところは、中村とかかわった劇作家や映像作家を取り上げてゆくことで、昭和の演劇史、あるいは日本の近代演劇史を、彼女の視点から新たに読み直すという壮大な知的作業を行っているからこそ、刺激的なのである。
(以下略。同書p.148〜p.150参照)
[クロワッサン 2007年4月25日特大号]
125頁  最近出版されたぜひおすすめの本

俳優の領分
中村伸郎と昭和の劇作家たち
如月小春

 2000年に急逝した劇作家・演出家の如月小春さんが生前、俳優の中村伸郎さん(’91年没)にインタビュー。そこから日本の近代化における新劇の位置付け、一人の俳優と昭和の劇作家の関係を論究した遺稿が、このたび、一冊の本にまとまった。
 舞台では岸田國生、三島由紀夫、別役実、映画では小津安二郎、黒澤明作品などで重要な役割を演じた俳優の言葉は、生き生きとした昭和史の証言であると同時に、純粋に演劇を思考する哲学でもあった。演劇を愛し信じた中村さんと如月さんの仕事が重みをもって伝わってくる。

新宿書房 3,360円
[産経新聞 2007年4月8日]
[出版ニュース 2007年4月上旬号]
[週刊朝日 2007年4月6日号]
[キネマ旬報 2007年4月上旬号]
[『望星』 2007年4月号]
■『俳優の領分』
如月小春著
新宿書房 三二〇〇円
 岸田國士、小津安二郎、三島由紀夫、イヨネスコ、別役実との出会い……。昭和の「純粋演劇」の道を歩んだ新劇俳優、中村伸郎のロングインタヴューを軸に、昭和の劇作家について論究する。『すばる』連載を単行本化。
[日本経済新聞 2007年2月18日]
[週刊新潮 2007年2月22日号]
如月小春
「俳優の領分 中村伸郎と昭和の劇作家たち」
 本書は劇作家であり演出家でもあった著者が、俳優の中村伸郎に対して行った膨大なインタビューが基盤となっている。主な内容は、昭和の新劇運動に関する証言、劇作家や映画監督たちとの交流、そして演技そのものの考察だ。さらに、著者は中村の言葉を自らが再構築した「演劇の歴史」に重ねていく。
 昭和初期、若くして院展に入選するほどの力をもつ画学生だった中村は演劇へと方向転換する。築地小劇場が分裂して出来た築地座を経て、昭和12年の文学座創立に参加。以後、38年の退座まで劇団の中軸にいた。その間に接した小山内薫や岸田國生、三島由紀夫といった人々について生き生きと語っている。
 また小津安二郎と黒澤明、二人の映画監督についての話が興味深い。役者に「演技らしい演技」を求め、役者を生かそうとする小津。役者を物として扱い、物としての存在を注文する黒澤。両者から大事にされた中村はやはり稀有な役者だった。〈生きた現代演劇史〉そのものである中村が平成3年に亡くなり、その9年後に著者自身も世を去った。本書は舞台と演劇を愛する者たちへの貴重な贈り物だ。〔新宿書房・3360円〕
[読売ウィークリー 2007年2月18日号]
『俳優の領分──中村伸郎と昭和の劇作家たち』
如月小春 著
 演劇を中心にさまざまな分野で才能を発揮し活躍するも、2000年に急逝。そんな著者が、岸田國士、小津安二郎、三島由紀夫、イヨネスコ、別役実ら劇作家と深くかかわった新劇俳優・中村伸郎へのインタビューを通して、昭和の演劇史の一場面を鮮やかに切り取る。
(新宿書房・3360円)
[週刊文春 2007年2月8日号]
本の詳細を見る→<ISBN4-88008-359-3