あああ

vol.1 [2001/06/19]

気鋭の職人たちが挑戦する「冷やしラーメン」

篠原史臣

かつてラーメン店の夏のメニューといえば「冷やし中華」一辺倒だった。ところが、あの甘酸っぱいタレを使った冷やし中華が急速に分布を減らしている。このペースで行くと、遠からず絶滅危惧種のレッテルを貼られてしまうことだろう。冷やし中華は、どんなに工夫を凝らそうとしても、例の甘酸っぱいタレが没個性的な料理にしてしまうからだ。世は、ラーメンにも個性が求められる時代、ラーメン作家の作品が認められる時代。百花繚乱という形容がぴったりなほど、味、デザインとも色とりどりのラーメンが咲き競う時代に、もはや冷やし中華の出る幕はない。

ラーメン業界をリードする気鋭のラーメン職人たちが夏のメニューに選んだのが、「冷やしラーメン」だ。冷やしラーメンは1952年、山形市の『栄屋本店』という一軒の蕎麦屋で生まれ、山形市を中心に細々と食べ継がれてきた地ラーメンだが、ここ6~7年の間に全国的に知られるようになり、この1、2年でラーメンのジャンルとして定着しはじめた。「冷やしラーメン」とは、冷たいスープをたっぷり張ったラーメンのこと。「冷やし中華」とは違い、自分のスープで、自分の表現したい作品をつくることができる。今年は、この冷やしラーメンをメニューに加えた店が、首都圏では目立って増えている。しかも、気概のある職人たちの店が続々と「冷やしラーメン」に挑戦しているのである。

私が、首都圏でもっとも高く評価している冷やしラーメンは、『山形ラーメン天童』(多摩市)の「冷やし鶏中華」と「紅花冷やし麺」という2種類の冷やしラーメンだ。前者は、山形県河北町谷地地区の地ラーメン(『いろは本店』)を手本にした鶏だしの冷やし麺、後者は山形市の冷やしラーメンをベースにした牛テールだしの冷やし。両者とも極めて完成度が高く、山形の本家の味を凌駕していると断言できる。新宿の超有名店『麺屋 武蔵』の冷やし麺も秀逸だ。一昨年の「柚香冷やし麺」、昨年の「冷虹麺」につづき、今年は「野の冷やし麺」を発表した。さまざまな野菜と和風だし、ショウガや大葉を練り込んだ変わり麺が一つになった傑作。相模原市の『キリン食堂』の「芋冷やしソバ」、調布市の『たけちゃんにぼしらぁ麺』の「梅酢冷やしそば」も極めて個性的な秀作と言えるだろう。この夏は冷やしラーメンのブーム元年。どこかの店だ見つけたら、ぜひトライしてほしい。

(1) 筆者の篠原史臣(しのはら・しおみ)はエディター。『湯気のむこうの伝説』の編集を担当。業界最強のラーメン・エディターとして知られ、『TOKYO 1週間』でのラーメン連載を3年間担当している。
(2)

栄屋本店
山形市本町2-3-21 TEL.023-623-0766 
営業11:30~19:00 水曜休

いろは本店
山形県西村山郡河北町谷地中央2-1-15 TEL.0237-72-3175 
営業11:00~18:00 木曜休

山形ラーメン 天童総本店
東京都多摩市関戸6-6-16 TEL.042-357-3277 
営業11:30~15:00、17:00~23:00/土曜11:30~23:00/日曜・祝日11:30~22:00 月曜休

麺屋 武蔵新宿店
東京都新宿区西新宿7-2-6 TEL.03-3796-4634 
営業11:30~15:30、16:30~21:30/土曜・祝日11:30~16:00 日曜休

キリン食堂
神奈川県相模原市星が丘2-1-3 TEL.042-754-4541 
営業11:30~翌2:00/日曜・祝日12:00~翌2:00 無休

たけちゃんにぼしらぁ麺
東京都調布市深大寺元町5-2-9 TEL.0424-41-2740 
営業11:30~14:45、18:00~21:45 月曜休

※冷やしラーメンは、多くの店で夏季限定メニューとしての販売です。
 営業時間、定休日は変更される場合があります。
 営業終了時間については、売り切れ次第終了となる店もあります。



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