そしてぶらぶら猫は行く
パリ再訪雑記

[2003/07/17]

パリグラム訪問

 この秋刊行予定の『パリ半日散歩(仮題)』のフランス語原典の版元パリグラム社を訪れた。偶然にもぶらぶら猫の滞在先から歩いて数分の、かつてのパリ随一の繁華街グラン・ブールヴァールの喧噪をわずかに引きずる地区にある。

 フランスの出版関係のオフィスを訪ねるのはこれが2度目。1度目は各国の新聞から興味深い記事を集めてフランス語訳してまとめた新聞を発行しているクリエ・アンテルナショナルという新聞社。各国語対応の担当者がいる大きなオフィスだった。それに比べれば今回のパリグラム社はずっと小ぶり。製造業やサービス業ならその名前相応の立派なオフィスを構えているのが普通だが、よく名の知れた出版社でもオフィスは崩れそうなビルの一角だったりするのは洋の東西を問わない。アシェットやフィガロなどは立派な社屋を持っているのは当然として、パリ関係の書籍を探していると必ず目にとまる良書を発行しているパリグラム社だが、ビルの一角を占めるそのオフィスはこぢんまりしている。

 とはいっても同規模の日本の会社に比べればゆったりしている。欧米の会社は個室主義が徹底していて、各自が専用の部屋を持っていて、日本のように机をつきあわせて仕事をすることがない。だから10人のパリグラム社でも、最近面積が倍にひろがったらしい? 新宿書房社屋の10倍近くはあるかもしれない。一人用の部屋だけで新宿書房全体と同じくらいと言っても誇張ではない(社長さん、失礼!!)。

 それでも小出版社。書店まわりなども専門の部署があるわけではなくて編集者各自が行っているらしいし、壁の一角に在庫が積まれている様子も「微笑ましい」。

 応対してくれたサンドリーヌさんからはおみやげに本をたくさんいただいた。これらの出版物からは、規模は小さくても社員ひとりひとりのパリを愛する気持ちが伝わってくる。ぶらぶら猫も彼女に一冊献呈したが、それは拙著『ぶらぶら猫のパリ散歩』。パリの出版社からパリの本をもらい、東京の出版社からパリの出版社にパリの本を贈るとは…。堂々と大東京の本を贈って喜ばれるような、そんな魅力を東京も身につけてもらいたいものだ。




*筆者 藤野優哉(ふじの・ゆうや):元編集者。1999年より1年間、絵描きを目ざしてパリに留学。3月に新宿書房より『ぶらぶら猫のパリ散歩──都市としてのパリの魅力研究』刊行。2003年6月17日~7月17日にかけて再びパリに滞在。

「そしてぶらぶら猫は行く」コラムTOPへ