そしてぶらぶら猫は行く
パリ再訪雑記

[2003/07/14]

国費留学

 ぶらぶら猫が以前に通っていたアトリエに挨拶がてら顔を出すと、この秋からアトリエに通うという日本からの男性に出会った。なんでも文化庁の海外派遣で来るらしい。「お上」だとか「お役人」の言葉に弱いぶらぶら猫は、これまた偉いエリートさんがやってくるのだと恐縮してしまいそうになったが、ごく普通のまじめそうな好青年ならぬ好中年である。

 彼は長年公務員として勤めながら絵を描きつづけ、近年はかなりの数の個展をこなすなど、絵描きとして活躍をはじめたところらしい。これまで自分がやってきたことをさらに一歩飛躍させるために海外留学を決心したのだという。作品もとても良いものを描いているようだし、きっと実りある留学生活を送ってくれることと思う。

 シテ・ユニヴェルシテール(国際大学都市)日本館の館長さんの話によると、ここ数年のフランスへの日本人留学生の数は増えこそすれ減りはしないという。ただ学ぶ目的が若干変わってきており、政治学や経済学などといった、あまりフランスらしくない勉強をするために留学する人が増えているとのことである。文学、美術といった従来のフランス的なものの価値がさがり、EUの拡大強化やユーロ導入など、ヨーロッパの世界政治・経済における地位があがるにつれて、政治学や経済学、経営学といったこれまでならアングロ・サクソンの専門であったような分野における留学生が増えていることを拙著『ぶらぶら猫のパリ散歩』に書いたとおりである。  

 ユーロ高が進む昨今、米英中心指向を反省して、ますますフランスで政治や経済を勉強する人が増えることは予想される。ただし、けっこういい加減でもなんとかなってしまう美術留学とは違って、並の語学力ではつとまらないようで、講義についていけずに挫折する学生も少なくないとも日本館の館長さんは語っておられた。

 さて、国のお金で留学させてもらえるなんて羨ましい。ぶらぶら猫も申請しようかしら。毎年美術だけで20名前後、音楽など他分野も含めると100名近い人々がこうして海外に渡っているとのことである。 昨今の財政事情が苦しい中、海外留学派遣のための予算は増えているそうな。米百俵の精神か、将来の日本を背負って立つ国際感覚豊かな人材を育てるための先行投資といったところか。こうした事業が無駄だとは思わない。選ばれた人は、ことさらお金を出してくれた国のためだなんて考えなくて良いから、自分のために一生懸命勉強して欲しい。そうすればおのずと国のためにもなるのだ。

*筆者 藤野優哉(ふじの・ゆうや):元編集者。1999年より1年間、絵描きを目ざしてパリに留学。3月に新宿書房より『ぶらぶら猫のパリ散歩──都市としてのパリの魅力研究』刊行。2003年6月17日~7月17日にかけて再びパリに滞在。

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