そしてぶらぶら猫は行く
パリ再訪雑記

[2003/07/11]

パリは人を絵描きにする?

 最近パリに絵の勉強に来た日本人から「街中で絵を描いている人が意外と少ないですね」と言われた。日本で氾濫するパリ・スケッチを見ての印象であろうか? いくらパリの街を描いた絵が多いからといって、モンマルトルのテルトル広場を除いて、いつも、どこにでも絵描きがパリの街中に溢れているわけではない。

 とはいいつつも、東京などに比べれば街中で絵を描いている人は多いのではないであろうか。とくにシテ島近くのポン・デ・ザール(芸術橋)やポン・ヌフ周辺、ノートル・ダム大聖堂周辺にはこの季節なら必ず絵を描いている人にお目にかかれるはずだ。

 パリの街は人の絵心を刺激するらしい。先日、オルセー美術館近くのセーヌ河にかかる歩行者専用橋ソルフェリーノ橋の上で、二人の若い高校生くらいの女の子が、2人並んでシテ島方面を向いて手を動かしていた。絵を描いていることはすぐに知れたが、よく見るとスケッチ・ブックなどをきちんと用意してきたのではなく、普通のノートを一枚破いて、ボールペンをちょっと不器用に動かしていたのだ。あたかも絵を描くつもりでここに来たのではないけれど、あまりに美しい景色に思わず描きたくなって持っていたノートに描きはじめた、そんな感じだったのだ。

 思わずシャッターを押したくなる美しい景色というのは世界中に多いけれど、思わず絵筆(ペンでも)を動かしたくなる衝動にかりたてる魔力がパリにはあるのかもしれない。あるいは過去にパリに魅せられた画家たちの亡霊が人々を絵描きにかりたてるのであろうか?

*筆者 藤野優哉(ふじの・ゆうや):元編集者。1999年より1年間、絵描きを目ざしてパリに留学。3月に新宿書房より『ぶらぶら猫のパリ散歩──都市としてのパリの魅力研究』刊行。2003年6月17日~7月17日にかけて再びパリに滞在。

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