そしてぶらぶら猫は行く
パリ再訪雑記

[2003/07/09]

ファサードとすずかけ

「ファサード」という言葉を日本語に訳すと何となるだろうか? 壁、壁面? 見つめるだけの価値ある壁面をもつ建物のほとんどない東京の街中では、ファサードという言葉のもつ意味は大きくないが、見事な壁面をもつ建物の林立するパリを歩いていると、ファサードという言葉が重みをもつ。

 パリ散歩の楽しみの第一は、立派なファサードを眺めることにある。細かな彫刻、優美なレリーフ、装飾豊かな鉄柵…。パリ2000年の歴史を感じさせる、時代時代のさまざまな様式を見比べ、その精巧さに驚嘆し、その優雅さに嘆息する。アール・ヌーヴォー様式とアール・デコ様式の建物が隣接しているところなど、その対比が実に面白い。

 こうした様式の多様性に加えて、パリの街は碁盤の目ではなく、幾つもの通りが違った角度で交わることが多いから、ファサードがさまざまな角度で重なり会い、見る角度によって街は違った表情を見せてくれる。

 ところでファサード散歩は春や夏といった良い季節よりも秋や冬の方が都合がよい。なぜならパリの街路樹は大木が多く、その枝にびっしりと葉の茂る季節は通りからファサードがまったく見えなくなってしまうことも多いからだ。パリ市内の観光名所をかけ足でめぐる観光バスに最近乗った人の話では、ガイドさんが街路樹のプラタナスが邪魔だと言ったそうだ。せっかくの記念建造物も、葉むらに隠れて車窓から見えないためだ。

 それにしてもガイドに邪魔者扱いされるほどのパリのプラタナス(すずかけの木)は、ほんとうに立派だ!!

*筆者 藤野優哉(ふじの・ゆうや):元編集者。1999年より1年間、絵描きを目ざしてパリに留学。3月に新宿書房より『ぶらぶら猫のパリ散歩──都市としてのパリの魅力研究』刊行。2003年6月17日~7月17日にかけて再びパリに滞在。

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