そしてぶらぶら猫は行く
パリ再訪雑記

[2003/07/07]

工事現場(シャンティエ)マニア

 この秋に刊行予定の『パリ半日散歩(仮題)』の取材で街中を歩いていた時のことである。本の中に示されている建物が見つからず、その建物があるとされている辺りに建物を壊した工事現場が広がっていた。相当大きな工事現場で、隣接する建物の普段は見られない裏の壁の部分が100メートル近くにわたって見えていた。お目当ての建物はもう壊されてしまったらしい。前掲書の中では「時代の流れなど忘れたかのようにそこに残っている」と書かれていたが、急に時の流れを思い出して去ってしまったようなのだ。

 するとカメラをもってその工事現場の写真を撮っている中年の女性がうろついているのがわかった。これはぶらぶら猫の同類、すなわち街中をうろつくのが好きな散歩仲間ではないか? 彼女ならここにかつてあった建物のことを知っているのではないかと話しかけたが、ちょっと違った。彼女は絵描きで、工事現場の壁の色が面白くて写真を撮っているのだと言った。残念ながらぶらぶら猫の探す建物については知らないようであった。

 汚い界隈がどんどん再開発されてきれいになったパリだが、今でも古い建物を壊して工事中のところがそこかしこにある。こうした工事現場では、これまで見られなかった隣接する建物の裏の部分が見られて、彼女ならずとも興味をそそられる。ぶらぶら猫も散歩中にこうした工事現場を見つけると、うれしくて夢中でカメラのシャッターを押してしまう。手前の建物が壊されて露わになった壁は、土色や灰色を基調としながらも様々な色が重なり、あたかも佐伯祐三の絵を見るかのごとくである。偶然がつくりだした芸術作品を好きな人は、前出の女性やぶらぶら猫以外にもたくさんいるに違いない。パリの工事現場(シャンティエ)巡りをしてみるのも面白い。

*筆者 藤野優哉(ふじの・ゆうや):元編集者。1999年より1年間、絵描きを目ざしてパリに留学。3月に新宿書房より『ぶらぶら猫のパリ散歩──都市としてのパリの魅力研究』刊行。2003年6月17日~7月17日にかけて再びパリに滞在。

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