そしてぶらぶら猫は行く
パリ再訪雑記

[2003/07/06]

犬は外、猫は内?

 パリの街中で犬は多く見かけるが、猫を見かけることはまれである。日本の街ならちょっと狭い路地に入れば野良猫の1匹や2匹すぐに見つかるが、普通にパリを歩いている分には猫に出会うことはまずない。パリジャンは猫が嫌いなのかしらと思ってしまうが、そう結論づけるのは早すぎる。テレビのコマーシャルではドッグ・フード以上にキャット・フードのコマーシャルが流されているし、スーパー・マーケットにはキャット・フードが山と積まれ、それを購入する人の姿もしょっちゅう見かけた。パリジャンがキャット・フード好きならいざ知らず、人間が食べるのではない以上、相当な数のお猫様がパリにはいることの証明である。

 以上の事実から、まずはパリの猫は家の中で飼われていることが推測される。猫は家で飼える動物である。犬のように散歩に出さなければならない面倒はないし、外は危険が多いから家の中で飼うべきだと言う人もいるぐらいだ。実際、窓の内側からこちらをうかがう猫と目が合うことは時々ある。

 猫を家に閉じこめるのを嫌う人は、パリの猫は可哀想だと思うであろう。しかしである。今回、秋に出版予定の『パリ半日散歩(仮題)』の取材で、アパルトマンの、通りに面した扉の内側にひろがる中庭や裏路地にまで足を踏み入れる機会が多かったのであるが、そこで多くの猫たちに出会ったのである。パリの街は通りはびっしりとアパルトマンの壁で囲われているが、その内側には緑豊かな庭や裏路地がひろがっている。こうした庭や裏路地は、たいてい扉によって隠されていて、普通に通り過ぎる者の目に触れることはない。この緑豊かな庭や路地裏を、パリの猫たちは自由にうろついていたのである。

 そういえばぶらぶら猫が留学中に、友人がバカンスに出かける人の猫の世話と留守番を頼まれていて、一度その家にお邪魔した際、かの猫君は昼間は広い中庭を自由に散歩して、食事の時間になるとちゃんと部屋に帰ってきていたのを思い出す。パリの猫はけっして家の中に閉じこもってばかりいるわけではなかったのだ。

*筆者 藤野優哉(ふじの・ゆうや):元編集者。1999年より1年間、絵描きを目ざしてパリに留学。3月に新宿書房より『ぶらぶら猫のパリ散歩──都市としてのパリの魅力研究』刊行。2003年6月17日~7月17日にかけて再びパリに滞在。

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