(76)九段下・耳袋 其のじゅうさん
[2020/6/20]

「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策で国民に一律十万円を配る特別定額給付金」が今週の月曜日に振りこまれていた。5月21日に申請書を郵送して申し込んでいたので、私の住んでいる自治体の仕事ぶりはいかがなものだろうか。このお金は税金(自動車税など、こちらは早々送付された)の支払いですぐに消えてしまった。

最近送られてきた本や新聞などをご紹介しよう。

●『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』(雪朱里[ゆき・あかり]著、グラフィック社、2019)

これは以前紹介した『篠原榮太のテレビタイトル・デザイン』(篠原榮太著、グラフィック社、2020)の著者夫人からの贈呈本だ。篠原榮太(1927〜)さんは、この34人の中に「タイトルデザイナー 篠原榮太」として紹介されている。篠原さんは、1955年に開局したTBS(当時は「ラジオ東京テレビ」)にタイトルデザイナーとして入社。以来、数々の番組のタイトルのロゴデザインを手がけた。タイトルデザイナーを目指したきっかけは、アメリカ映画『黄金の腕』(1955、日本公開は1956)のソール・バス(Saul Bass、ソウル・バスとも:1920〜1996)の映画タイトルを見て感動したからだそうだ。
本書にはわたしが知っているお二人も登場する。ひとりは、「製本マイスター 青木英一」さん、松岳社(しょうがくしゃ)青木製本所(現・松岳社)の三代目社長だ。1971年、高卒後に西ドイツ(現・ドイツ)に留学、マイスターを取得。78年に帰国し、99年、社長に就任。新宿書房も80年以降、青木さんにはずいぶんお世話になった。残念なことに2015年に急逝される。ミームデザイン学校(校長・中垣信夫)には、早くから協力され、同校の「製本工程の現場」の講座を受け持たれていた。松岳社はいま英一さんの息子さんが4代目社長としてがんばっておられる。刊行中の「宇江敏勝民俗伝奇小説集」(装丁=鈴木一誌)の製本は、現在も松岳社さんにお願いしている。
もうひとりは「手動写植オペレーター 駒井靖夫」さん。駒井靖夫(1941〜)は、プロスタディオ代表。いまでも、写真植字(写植)の文字にこだわる。私も杉浦康平プラスアイズとの関わりで、1970年代からのお付き合いがあったが、デジタル編集になった近年はまったく仕事をお願いしていなかった。九段下にある駒井さんの事務所(プロスタディオ)と新宿書房とは至近距離だ。時々、路上で版下を抱えて歩く駒井さんに出会う。

他に伊藤信男商店とツバメノートの方が34人の中にいる。「製本資材販売 伊藤芳雄」さん。伊藤芳雄さんが代表をつとめる伊藤信男商店は代表的商品として、花布(はなぎれ:あるいはヘッドバンド、ヘドバンとも。上製本の天の背の接着面に貼り付けた布。本体は補強のために付けられていたものだが、いまや装飾用である)や、しおり(栞[しおり]ひも、スピン、リボンとも言い、上製本の背表紙か花布の間に接着させた平織りのひも。文庫や新書などの並製本にも付けることもある)を販売する。われわれは製本所への発注書のなかで、花布の番号やしおりの色を指定することは大事な項目の一つだ。伊藤信男商店の『はなぎれ しおり 見本帳』を見ながら、「花布は伊藤信男の3番」などと指定してお願いする。しかし、ずっと「伊藤信男さんとはどんな人だろう?」と思っていた。
最後に「ノート企画開発 渡邉精二」さん。ツバメノートの渡邉精二さんは2017年に逝去されている。じつは、「兄弟会社」である桜映画社はこのツバメノートの本社ビルの6階に事務所を借りている。
本書は雑誌『デザインのひきだし』(グラフィック社)の5号(2008年6月)から37号(2019年6月)まで掲載された「名工の肖像」の連載に書き下ろしを加えてまとめたもの。

●『痴報 籠屋新聞』(43号、2020年3月31日)

この新聞を作っているのは竹細工師、稲垣尚友さん。彼は、『朝日新聞』の「ひと 南の暮らしを記録する 稲垣尚友さん(78)」(2020年6月10日)に登場した。これまで『平島(たいらじま)放送速記録』(1975)などたくさんの本を出版してきた稲垣さんが、トカラ列島のことばや暮らしの解説を集大成した『平島大事典』の校正作業を進め、年内の完成をめざすという。
私のところには、4月の初めに稲垣さんから『痴報 籠屋新聞』(43号)が送られてきていた。A5判20ページ、すべて手書きの新聞である。千葉県鴨川市にある籠屋新聞社の本社も昨年の台風15号、19号で被災したらしい。2ページにわたる記事の後、「被害甚大ムラ(六十余戸)の祭礼中止。」とある。 http://www.tokarajuku.sakura.ne.jp/index.html
http://www.tokarajuku.sakura.ne.jp/kagoya_shinbun/...

新型コロナウイルスでどこも大変だが、興行関係もその対応に苦慮している。

●映画『いろ』(東映、1965)
東京・阿佐ヶ谷ラピュタで「酔っぱらい映画祭」(2020年6月17日〜7月18日)が開かれている。飲んだくれが主人公、酒場が舞台の映画、19本を上映。6月21日〜7月1日は村山新治監督の『いろ』が、本映画祭唯一のニュープリント版で上映される。『村山新治、上野発五時三五分』の(p322~324)参照。
阿佐ヶ谷ラピュタの支配人の方から、このニュープリント版の試写会のお誘いもいただいたが、コロナ自粛のため出席できなかった。この「酔っぱらい映画祭」にはぜひ行ってみたい。

●『大道芸アジア月報』6月号
編集・発行人の上島敏昭さんから、最新号が送られてきた。
http://zatugei.seesaa.net
まるでイベント中止特集号のありさま。大道芸全滅の中で、7月10日に浅草・木馬亭で「浅草雑芸団・日本の大道芸探訪プロジェクト・番外編」と銘打った「病魔退散祭」が開かれる。チラシの中央には妖怪アマビエの姿が大きく描かれている。はたして、これで新型コロナを退散させることができるか。