ブダペスト日記
[毎日新聞 2005年10月23日]
[婦人公論 11月22日号]
 堀江氏は、1964年生まれ。三島由紀夫賞、芥川賞、谷崎潤一郎賞と、輝かしい受賞歴をもつ作家として活躍する一方、明治大学教授としてフランス文学を講じ、翻訳書も多数ある。そんな氏が生まれた翌年に、徳永康元氏はハンガリーの作家マレーク・ベロニカの『ラチとらいおん』を翻訳出版している。以来、名訳をもって40年ものロングセラーとなっているが、奇しくも、堀江氏はこれを少年の日に愛読したという。古本好きの先輩へ敬愛をこめて書いた、好書評。
[図書 12月号/「束ねた柱」(バン・マリーへの手紙6)]
 岐阜県出身の堀江氏は、少年のころ、岐阜県瑞浪市に開館して地元で話題になっていた化石博物館へ何度か見学に行っていたが、そこの目玉として展示されていた「デスモスチルスの頭骨」は、徳永康元氏の父・重康氏が発掘に関わっていたということを、本書『ブダペスト日記』で知った。
思いがけず、少年時代に友人に誘われて化石発掘の探険に出かけた記憶が堀江氏によみがえり、さらにイギリスの児童文学者ウイリアム・メインが書いた小説『砂』(林克己訳、岩波書店)を思い出して書架から取り出し、巨大生物の骨を掘り出そうとする少年たちの物語にあらためて胸をときめかせ、さらには「デスモスチルス」そのものに連想が発展していったという。さまざまな奇縁に幸福な数日間を過ごした氏の心象を綴った、好エッセイ。
[出版ニュース 10月号]
ブダペスト日記
徳永康元著

 言語学者でハンガリー文学の徳永康元氏(1912〜2003)のハンガリー体験をもとにした『ブダペストの古本屋』『ブダペスト回想』(恒文社)に次いで、ハンガリー留学時代の日記を中心に、随想や対談、インタビューを織り交ぜて構成した遺著。留学日記は、1934年から42年にかけてという戦時下のヨーロッパと日本という関係の中で、世界の動向を見つめながらの見聞と留学生活を満喫している様子を描いた貴重な記録といえる。その旺盛な好奇心や探究心は、50年以上の時を経ての95年の旅日記「ハンガリーの読書界近況」や「中欧の旅」でも発揮されている。〈ぼくは外国のぜんぜん知らない町の古本屋に初めて行くと、向こうもぼくのこと知らないでしょう。テストするんです。他流試合みたいにね〉というように、古書めぐりや読書の愉しみをはじめ、映画や芝居、音楽などを語る文章や語りは、年齢を感じさせない。(B6判・317頁・2500円・新宿書房)
[週刊朝日 10月15日号]
[芸術新潮 10月号]
[読書人 10月1日]
[毎日新聞 8月29日]
本の詳細を見る→<ISBN4-88008-314-3