森のめぐみ
[現代林業 2007年1月号]
熊野の四季を生きる
宇江敏勝著
 熊野の山と森と川の姿と、自分もふくめてそこに住んでいる人々の物語である。
 ここには熊野三山(本宮、新宮、那智)があり、信仰の地として広く知られているが、本書で取り上げた大塔山系の森や山里は、熊野三山を近くにしながら外部の人間が近づくことはまれで、今でも一般にはほとんど知られていない。熊野本来の森がまとまったかたちで残っており、山里の生活にもまだ伝統的なかたちが息づいている。
 その流域を1994(平成6)年に著者は紀行風に歩き、現在の状況にふれながら、かつての豊穣な天然林における、自然と生活や風俗、労働のありようを探っている。
 岩波新書『森のめぐみ』の増補新版であり、森の一軒家に生きる野尻皇紀さん一家のことが付け加えられている。
(新宿書房?03・3262・3393 定価2310円)
[出版ニュース 2007年上・中旬合併号]
[紀伊民報 2006年11月15日]
「山の作家」宇江敏勝さん(69)=田辺市中辺路町野中=の作品を再収録した「宇江敏勝の本」シリーズの9作目『森のめぐみ─熊野の四季を生きる』が新宿書房から発刊された。
 シリーズは1期全6巻が完結し、「森のめぐみ」は2期目の3巻目。1994年に岩波新書から出版したものを増補した。「第1章・古座川」「第2章・赤木川」「第3章・大塔川」「第4章・安川」「第5章・前ノ川」「増補・森の一軒家に生きる」からなる。
 舞台は、大塔山(1122?)を中心に天然林が多く残る周辺の森や川、山里。宇江さんは「外部の人がほとんど入らず、地域に住む人々も大塔山を越えた向こうの里との交流も少なく、熊野地方の古い習わしも最後まで残った」と話す。
 古座川では、谷の水を引いたりせずに降雨だけで稲を育てる「天水田」、大塔川では、奥地の製材所から板を重ねて流した「板筏(いたいかだ)」、前ノ川では、ツバキの葉にきざみタバコを巻いて吸った、「椿の柴巻き」など、熊野の山に生きる人の生活を紹介する。「森の一軒家に生きる」では、新宮市熊野川町畝畑の一家の暮らしを追った。
 四六判259?。2200円。全国の書店で販売している。問い合わせは、新宿書房(03・3262・3392)。
[毎日新聞 2006年11月22日]
中辺路在住の作家
宇江敏勝さん
『森のめぐみ 熊野の四季を生きる』
山の暮らしシリーズ9作目出版
大塔山系の古老聞き書き

 田辺市中辺路町野中の作家、宇江敏勝さん(69)が、山の暮らしを描いたシリーズ9作目のエッセー「森のめぐみ 熊野の四季を生きる」(新宿書房、四六判、259?)を出版した。明治末〜現代の大塔山系(標高1122?)の自然、人々の日常、行事などが平明な文章でつづられている。
 第1章「古座川」〜第5章「前ノ川」と増補「森の一軒家に生きる」から成る。「前ノ川」までは、94年に岩波新書で上梓(じょうし)された同名の著作を、増補は他の収録作品から加えて新版とした。
 宇江さんは「落葉広葉樹、照葉樹、針葉樹が混成する大塔山系は、古来から外部との交渉が少なかった」と話し、熊野地方で最後まで残った古い習慣などが、古老からの聞き書きで紹介されている。
 山中のため水源がなく、雨だけを頼みの綱とした「天水田(てんすいだ)」、天然林の伐採、山祭り、お盆に迎えた霊を帰す行事「流れ施餓鬼(せがき)」など時代に埋もれたものや、なお守られているものが描かれている。
 宇江さんは県立熊野高校を卒業後、42歳まで山仕事をしていた。傍らで山の暮らしを書き続けた。シリーズは既刊の「森をゆく旅」「樹木と生きる」「熊野修験の森」などがある。
 2200円(税別)。全国の書店で販売している。【吉野茂毅】
[朝日新聞 2006年12月14日]
熊野の森と習俗描く
『森のめぐみ 熊野の四季を生きる』
田辺の宇江さん出版

 田辺市中辺路町在住で、山を舞台にした作品を書き続けている作家宇江敏勝さん(69)が、「森のめぐみ 熊野の四季を生きる」(新宿書房、本体価格は2200円)を出版した。熊野地方の主峰大塔山(1122?)や周辺の森、川、山里などを舞台にした風土記で、自然や地域に根付いてきた習俗、伝統、暮らしなどを描いている。
 大塔山系に源を発する古座川、赤木川、大塔川、安川、前ノ川の5河川ごとに流域を訪ねたルポと「森の一軒家に生きる」の6項目。19世紀初めの「紀伊続風土記」の記述をあちこちに盛り込んでいる。
 大塔山などを丹念に歩いて確認したブナや照葉樹林のカシ類、針葉樹のモミやツガなど、同山系の豊かな自然を描写。なかでも照葉樹林について、宇江さんは「日本人にとって原郷の森。熊野に住む者にとってはこの森林こそが故郷」としている。
 今では絶えた習俗や暮らしも、掘り起こしている。
 古座川流域では、頭に物を載せて運ぶ女性の「イタダキ」を紹介。力の強い人だと米1俵(約60?)を運んだという。
 同じ流域の成川地区では、かつて雨水だけで耕作する天水田が約15?あったという話も掲載している。
 前ノ川水系のルポでは、熊野地方の特異な風習として「柴(しば)巻き」が登場する。ツバキの葉できざみたばこを巻いて吸う。女性の喫煙に向いていたという。
 この本は、94年に岩波新書として出版した同名の作品に、「森の一軒家に生きる」の項を加えた増補新版。
本の詳細を見る→<ISBN4-88008-309-7