紀伊半島の果無山脈、その山深い土地に生まれ成長した著者にとって熊野の山々が生活の場であり、山が仕事場だった。 祖父の代からの炭焼きを三代目として引き継ぎ、造林作業に携わってこの山域の時の流れと移り行く様をずっと見続けてきた。 それは何千年も続いてきた山と人とのかかわりが変わりゆくときであり、山びととしての最後の走者としての位置におかれていることを、実感することにもなった。 長年にわたって受け継がれてきた独自な風俗、文化、技術の山の生活が滅び去ろうとしていることを、自らの体験を通して記録しておこうというのが著者の深い思いだ。 本書には生い立ち、家族、炭焼き、植林、仲間、山の動植物や世相などが克明に綴られ、当時が再現される。 昭和五十五年に初版発行されたものに、その後の移り変わりの様子を「増補新しい世紀の森へ」の章として書き加え再刊された一巻。 四六判・二八八ページ。二一〇〇円 新宿書房刊 電話03・3226・5450