生活という速度

[ブッククラブ回ニュースレター 2011年夏号(vol.82)]

[日経ソリューションビジネス 2007年8月15日号]

[讀賣新聞12月3日朝刊・生活欄]

 高速で過ぎ去る情報化社会から逃れ、ゆったりとした日常生活のリズムを取り戻そうと、博報堂生活総合研究所の関沢英彦所長(57)(東京経済大教授)がエッセー集『生活という速度』を出版した。肩の力を抜いた時間の過ごし方が、「生活観察のプロ」の視点でわかりやすく紹介されている。

 関沢さんはコピーライターとして活躍後、同研究所に移り、1996年から所長を務めている。今回のエッセー集では、自身が仕事先や街中で見かけた事例に同研究所の市場調査結果を交える形で、93編の生活論を収録した。

 例えば、アナウンサーの話し方が速くなったことから、日本社会の高速化を指摘。小さな車を懸命に回す「ハツカネズミ」の生活をやめ、何もしない「時速ゼロの自由」の楽しさを味あおうと説く。

 中高年の男性たちには、「遊ぶこと」を勧める。女性の「衝動買い」のように、偶然に身を任せた旅行などがその例だ。また、「立つこと、踊ること、触ること」といった肉体的な実感を見直す動きが今後は広がると予想する。

 「だれもがゆっくりと生きたいと思いながら、忙しさを理由に『できない』と言う。でも、ゆとりのない人こそ、無理やり5分でも10分でも作って、自分の内面を見つめ直してほしい」と関沢さんは話している。

[朝日新聞『広告月報』12月号]

 ビジネスパーソンは、仕事の場面においては、瞬時に物事を判断し処理していく能力を求められる。また、仕事の成果を目に見える形で示せることも重要だ。しかし、そのような価値観を休みの時間にまで持ち込んであくせくする人が多いのではないか。「何かしなければ」と追いまくられて暮らしていては、感受性は死んでしまう。

 本書の著者は“時速3kmの思考”によって、「ゆっくりと五感を全開にしながら感じ取る作業の必要性」を述べている。例えば何もせずただ「いる」こと。そうすることによって見えてくるものがあるということだ。現在の閉塞感のある経済状況、凶悪犯罪、少子化問題などは、これまで多くの人が「生活する」ことをおろそかにしてきたことと無関係ではないのである。

 本書は、博報堂生活総合研究所の所長である著者の「生活観察のプロ」による視点で書かれたエッセイである。表紙の帯の下に隠れている「高速社会で過労死しないために時には、人生に水をやろうよ」という言葉が心にしみる。(つ)

[日刊ゲンダイ(2003年11月**日)]

 長年、広告業界に従事してきた著者によるエッセー集。

 地下鉄構内で見かけた読書するホームレスや、ドラえもんの「どこでもドア」など身近な話題から、生活観察のプロの視点で“高速社会”に対抗する日常のリズムの大切さを語る。「すべてが市場の競争の中に投げ込まれるようになった。しかし、生活は競わないものだ。何かを『する』にとりつかれる必要はない。夕焼けを眺めながら、ただ『いる』だけでも十分に人生である」との言葉がしみじみと心に届く。

[PASSAGEBLOG パッセージブログ]

<http://yoshi.main.jp/blog/archives/cat_book.html

結婚式場の関係者に聞いた話しだ。最近のカップルとの打ち合わせは真剣勝負だという。曖昧な価格体系は許されない。「各テーブルに飾られる花の単価は?」「お料理の前菜分はおいくら?」といった質問が飛んでくる。詳細を把握した後にお客がいうことは「そちらのランクを落として、こちらのランクを上げて」といった細かい要望である。(中略)この話は、他業界にも通じる。要素に分解して、顧客に提示することができない企業は存続が難しい。(p95-96)

旅館でいえば、あいまいな「一泊二食付きでいくら」といった値段構成ではなく、食事のあるなしとランク、個室の露天風呂のあるなし、部屋のタイプといった具合に要素を分解した上で、多様な組み合わせをできるようにする必要がある。(p96)

さて、旅というものを要素に分けてみよう。どのような部品から成り立っているのだろうか。具体的なもので語るなら、本人の移動・自分の荷物の運搬・宿泊・食事・現地の風景・現地の人々・現地での時間つぶしの方法・同行者・現地で出会う人々・記念になるおみやげといったものになる。いや、現地の温度と湿度・現地の空気感・現地の音・現地の匂いといったものを加える人もいるだろう。確かにこの後者の要素こそ、再び旅に誘い出す力かも知れない。(p98)

博報堂生活総合研究所所長関沢英彦氏のエッセー中の一篇「旅行を部品に分けて考えてみるから」の引用です。新聞雑誌に掲載されたショート・コンテンツを集成したもので、リラックスしたい時の拾い読み用に最適の一冊です。

[Yomiuri Weekly 2003年12月7日号]

著者は、博報堂生活研究所所長。高級ブランド品が売れる理由や女性に人気の店の法則、50歳代男性が注目されるワケなど、マーケティングのポイントやヒット商品の裏側などを説き明かす。淡々とした筆致でやさしく解説し、エッセーを楽しむように読める。

[北海道新聞11月16日朝刊1面 「卓上四季」より]

十代と六十代は似ている。博報堂生活総合研究所所長、関沢英彦さんはいう。電車で十代男性と六十代女性の姿を見て気付いたそうだ。▼スキー帽みたいな帽子と散歩用ツバつき帽子。ともに帽子をかぶる。リュックを愛用、両手をあいた状態にしている。歩きやすいカジュアル靴。群れをつくることが多い。▼関沢さんによると、二つの世代には、根源的な共通性がある。仕事や子育てという、社会的な役割に拘束されていない。思うままに私生活に没頭できる。将来不安を抱えつつ、今を楽しく過ごしたいと考えている。「生活という速度」新宿書房)▼(後略)

[宣伝会議 2003年12月号]

 デジタル化とグローバルな市場経済によって高度化した社会こそ、生活はゆったりと歩く速度で思考したい。生活観察のプロによる日常思考入門本。

[出版ニュース 2003年 11月上旬号]

「速さ」は、つねに産業社会の主題であり、モノの移動、情報の流れは高速になり、多くの人もこのことは歓迎している。休みともなれば、何かを「する」ことが求められ、数十キロ先の保養地まで渋滞を抜けてドライブをすれば、有意義な休みを過ごした気になっている。
 果たしてそれでいいのだろうか。このような速さにこだわらず、何もせずに「いる」ことは許されないのだろうか。夕焼けを眺め、ただ「いる」だけでも豊かな人生はあるような気がしないだろうか。本書は、このような問いかけを行いながら高速社会に抗し、日常の生活リズムを大切にした新しい生活に気づかせるためのエッセイ集。著者は博報堂生活総合研究所の所長である。
本の詳細を見る→ISBN4-88008-302-X C0095