サメ博士 ジニーの冒険
──魚類学者ユージニ・クラーク──

[蛋白質核酸酵素 共立出版、2003年9月号]

評者=団まりな(階層生物学研究ラボ

[J-Wave Good Morning Tokyo、NTT Data Now on Line、9月23日]

<http://www.j-wave.co.jp/original/gmt/online/index09.htm

*上記ページ、「9月23日」の「サメ博士に伺うサメの魅力」

ジニーさんの公式サイトは
<http://www.sharklady.com/

[日刊ゲンダイ 6月19日]

 80歳を越えた今も海に潜りつづける女性魚類学者のパイオニア、ユージニ・クラークの伝記。

 アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれたジニーは、9歳の頃に初めて行った水族館のとりこになる。幼い頃に父を亡くしたジニーは、苦学の末、魚類学者に。やがてフロリダに研究所を設立。4人の子育てをしながらサメの研究に没頭し、「シャーク・レディー」と呼ばれるほどのサメ研究の第一人者となる。

 差別や苦難にも負けず夢を実現したジニーの冒険的人生を活写。

[『S&Tジャーナル』2003年6月号、135号 ((財)科学技術広報財団)]

 サメは、スキューバ・ダイバーにとって特別な存在だ。出遭ったときは、もちろん恐怖が先立つと思うが、生物としての存在感には畏敬(いけい)の念さえ抱くのではないだろうか。(いまではペーパーダイバーに成り下がってしまったので偉そうなことは言えないのだが…)。地球上では、人類よりもずっと先輩格で、恐竜よりもさらに二億年も古く、四億年前にはすでに海を泳ぎ回っている(ちなみに人類の出現は、たった三百万年前)。流体力学的に洗練されたデザインは、海の生物として生き続けるための、いち早い進化の証しだろう。

 本書は、魚類学者ジニー(ユージニ)の生まれてから現在に至るまでの、まさに冒険ともいうべき、波乱万丈の人生を綴ったものである。現在なんと八十歳で、大学でも教鞭をとっている現役だ。執筆は、本人によるものではないが、逆に事実が淡々と述べられており、彼女についてもっと知りたいという欲望に駆られながら読み進んだ。

 ジニーは、子どもの頃に受けた海生生物に対しての衝撃と感動を持ち続け、戦前には珍しい女性生物学者としての夢を実現する。当時は、米国ですら、女性は職業に就くことすらままならず、なおかつ戦時下の米国で日系人という大きなハンディキャップをもっていた。並みの努力では、続けることは極めて困難だ。そのあたりの経緯は、さらりと述べられているが、すごいドラマがあったに違いないと推測される。

 科学者の映画は、昨年、数学者もので「ビューティフル・マインド」があったが、きっとジニーの物語は壮大なスケールで映像に映えることだろう。どなたか、映画化してくれませんか。一九八二年には、あのナショナル・ジオグラフィックがジニーに顧問をお願いし「サメ」というテレビ番組をつくったそうで、大変な評判を呼んだらしい。こちらは、ビデオで入手できそうだ。早速探したい。

 今は、バイオとかライフサイエンスとか、生物学も様々な表現で表わされているが、ジニーの手法はまさに生物学の原点と言えるのではないか。身体を張ったフィールドワークから発見が生まれるのだ、と確信を新たにした。海洋生物に関しての解説は、コラムとして随時散りばめられ、読み進むうえで、想像力を補ってくれる。いままで得てきた自分の魚の知識の中に、ジニーによる発見もあった。

 サメは怖い、と思う。だけど、サメからすれば、一番怖いのが人間だ。今日も気仙沼港(宮城県)には世界中のサメが、フカヒレの材料として水揚げされているのだ。

[出版ニュース 6月上旬号]

少女の頃から水族館めぐりが好きだったジニーは、高校に入学するころからは海洋生物学者になるのだと決め、さまざまな困難に打ち勝って世界有数のサメ博士になることができた。やがて、「シャーク・レディ」とまで呼ばれるように、80歳を過ぎた今でもサメを求めて世界各地の海に潜り続けている。

その間、3度の結婚があり、子育ても行いつつ、大型のイケスをつかったサメの飼育のも成功し、2度もサメに噛まれるが、映画『ジョーズ』で有名になったホホジロサメ「人食いサメ」でない可能性が高いことなどを見出している。彼女の最大の功績はサメに対する誤解を解いたことにあるが、本書は、その一部始終を2人の児童文学者に語ったもの。

[サメの海−進化するサメサイト]

<http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/4515/

日本で出版されているサメの本は、どれも非常に良くできていますが、今回登場した、『サメ博士ジニーの冒険』も、なかなかの名著です。この本はある日系の女性海洋生物学者の伝記ですが、童話作家が書いています。文章は、たぶん小学4年生から、中学生程度を対象にして書かれていますが、大人にも十分読みごたえがあります。はじめは、思ったよりもサメのことが書かれていないと思いながら読んでいましたが、だんだんジニーの、魚の研究に対する熱意が伝わってきて、一挙に読んでしまいました。

後に有名なサメ博士となるユージニ・クラーク博士の生涯は、様々な冒険でいろどられていますが、彼女はアメリカに移り住んだ、日本人の移民家族の娘でした。幼い頃、貧しい家庭に育ったけれども、すでに生き物に夢中で、無理して買った大きな水槽を持っていたことなどが書かれています。しかし太平洋戦争中は、日系人としてアメリカ人の反感にさらされて苦労したらしく、戦後も、日系人というのは、とかく不信な目で見られがちだったようです。しかし、そんな状況のなかでも彼女の才能を見ぬいて高く評価していった、まわりの研究者たちの態度は光ります。

この本はたんに日系人であるだけでなく、女性であるという大きなハンディを情熱で乗り越えて、海洋生物学の第1人者になっていく、活動的で魅力的な女性の物語です。この本からは、海洋生物学者の生活がいきいきと伝わってきます。恥ずかしいことに、この本を読むまで、レモンザメの知能の高さを調べる有名な研究をおこなったのは、ほかならぬ彼女ユージニ・クラーク博士だったということを、今まで知りませんでした。また人食いザメという、ホホジロザメに対する誤解についても、特別にページをさいて書かれています。

彼女の生涯を読んでいて、頭に思い浮かんでくる女性は、マイクル・クライトンの小説『ロスト・ワールド』に登場する、サラ・ハーディングです。ジニーの、新しいことに直面しても次々と挑戦していく姿には、さっそうとしたカッコ良さがあります。また彼女の非常に行動的で前向きな態度には、共感を覚えます。この本の底に常に流れているのは、研究のことが好きでたまらないという純粋な動機と、人生を楽しむジニの、はつらつとして陽気な態度です。これから海洋学者を目指す、いやそれだけでなくて、どんなことでも新しいことに挑戦していこうという子供たちに、ぜひ読んで欲しいと思います。

『サメ博士ジニーの冒険』は、今までのすぐれた日本のサメの本のラインナップに、堂々とくわえることができる本だと思います。読んだ後には、なんだか爽快な気分が残る、そんな作品です。

[望星2003年6月号]

女性魚類学者のパイオニアにして、八十歳を超えたいまも海に潜り続けているユージニ・クラーク(通称ジニー)。その一生を二人の児童文学者が描いた本書は、ジニー自身の写真や魚の写真など盛りだくさん。平易な文章で書かれているため、大人も子どもも楽しく読める。
本の詳細を見る→<ISBN4-88008-283-X