犬と三日月
イスタンブールの7年
加瀬由美子 著  

[てんとう虫 2002/9月号]

中年女性とハスキー犬
タフなトルコに生きる

日本惜しかった!でもトルコ強かった!W杯でやたら注目してしまったトルコだが、お祭り騒ぎの7年前、52歳で単身トルコに移住した日本女性がいた。アル中の夫と別れ、ハスキー犬とイスタンブールに渡る。トルコ語を習得し、和食レストランまで開業する。

しかし立ち退き、なんとか再開、そしてガス爆発、店舗全滅。さらに大地震、経済恐慌も訪れる。もはや波瀾万丈とは言い難い不幸が次々と。彼女が歩けば事件が起こる体なのだ。それでも彼女は前を向く。「すり鉢で水をするがごとし」というトルコ人気質を甘受し、友情を育み、へこまず生きる姿は感涙もの。それは奇しくもトルコ人がいかにタフかをも知らしめるのであった。


[出版ニュース 7月上旬号]

 <私が五十路に足を踏み入れてから、このイスタンブールで第二の人生を過ごそうと決意した理由は、そこに自分の娘が暮らしていたからに他ならないが、一つにはこの風景に魅了されてしまったこと><娘が日本に帰ったあとイスタンブールで犬と暮らしながら朝な夕なにトルコ語を喋り、ささやかながら自力で和食レストランまで始めることになろうとは>著者は52歳の時に、アルコール依存症の夫と別れ、愛犬とともにトルコに旅立つ。本書は、異国での人生の再スタートから7年の生活を綴ったものでトルコというお国柄や気質、イスタンブールで3軒目という和食の店、大勢の人々との出会いと交流など、充実と感動の日々が生き生きと描かれている。


[目黒考二の今週の一冊 2002/5月17日]

 シベリアンハスキーのビクターもなかなかいいが、本書のラスト近くに出てくる野良猫カラクズの挿話がダントツ。この牝猫は四匹の子猫を産むのだが、その子猫たちに何度も何度も通りを渡る練習をさせる挿話がいい。イスタンブールは野良犬と野良猫の多い街で、二十世紀の始めには人口以上に増えた野犬を皇帝の命令で一網打尽に捕獲し、マルマラ海沖合の孤島に捨てて餓死させたという。そういう悲しい歴史秘話もさりげなく挿入されている。

 それにしても、逞しい人だ。娘さんが先にイスタンブールにいて、それまで数度行ったことがある街だったにせよ、五十二歳で何の資格も特技もない人が、海を渡っていくのである?で、すぐに友達を何人も作ってしまうのである。苦難に直面しても、なんとかなるわと思うのである。いやはや、何とも。読み終えて思わず、そっとため息をつくのである。

以下<http://www.webdokusho.com/rensai/meguro/konsyu43.htmを参照。


[日刊ゲンダイ 2002/6月18日]

人生のやり直しに年齢は関係なし
 
 これぞ快著というべきか。
 著者は52歳のとき、アルコール依存症の亭主ときっぱり離婚。娘が留学するイスタンブールへ愛犬とともに移住した。7年前のことである。
 そしてトルコ語を学びながら、和食レストランを開業、日本企業の社員や地元ビジネスマンに大受け。
 しかし、店の立ち退きを迫られたり、ガス爆発事故や大地震に遭遇。何度もスッカラカンになりながら、ひるまず前向きに生きていく。
 本書はそうした自分の日常生活とトルコ人との交友を生き生きと書きつづったエッセーだが、著者の開放的で楽天的な人柄と行動力に感動する。人生をやり直すのに年齢は関係ないのだ!
 一般にトルコ人は熱しやすく冷めやすい、自分に非があっても絶対謝らず相手のせいにする、商売の駆け引きにたけている−−などトルコ人気質を教えてくれるのも有益。
 ともあれ、異国で暮らしながら人びとに親しまれ信頼されている著者に感心した。

[東京新聞・中日新聞 2002/6月16日]

 アルコール依存症の夫と離婚し、愛犬ハスキーとイスタンブールへ渡った時、著者は五十二歳。和食レストランを始めるも、ガス爆発や信頼していた人物の裏切りで三回も「開店」し直し、大地震と大不況にも見舞われる。それでもトルコを離れなかったのは、この国の懐の深さと厚い人情ゆえだったという。七転び八起きの凄まじい七年間の記録だが、人を愛し、明日を信じる強さには励まされる。


本の詳細を見る→ <ISBN4-88008-274-0

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