［図書新聞　2002／6月1日］

大人のための心温まる美しい物語
自然のままに生と死を受け入れて生きてゆくことの豊かさを、おだやかに語りかける
桑原文子（東洋大学教授）

産院で生まれ、病院の治繚室で機械に見守られながら死を迎える、というのは現代の日本人のごく普通の状況であろう。都会に住む単身者の日常の暮らしは、駅前のコンビニで買ったお弁当を電子レンジで温めて、顔の見えないメル友との会話を楽しみながらひとりで食べるというものになりつつあるようだ。一見わずらわしさのない便利な現代の暮らしのなかで、私たちはいったい何を失ったのか、それを教えてくれるのが本書である。これはアイルランドの古きよき時代の村の生活を、ユーモアとペーソスをまじえてつづる大人のための心温まる優しい物語である。（一部引用）

ダヴィンチ　5月号
「今月の注目本130」より