星吐く羅漢

[チルチン人 2003年秋号、26号]

 奥能登で百姓仕事に精を出し、「銀河窯」で焼き物づくりに励む版画家・江崎満。5世帯24人の「与呂見村」での、虫や蛇や鳥やトマト、里山や星、そして農と対峙する生活が生き生きと語られる一方で、重度障害児である長男・海の誕生をきっかけに、版画の道に進むまでの半生が素朴で力強い版画とともに描かれている。「世界と直に出会い、自分自身と直に出会う。それがこれからの生きる道だ」と語る著者がまさに今、生きている証がここにある。

[銀花 135号、2003年]

 横浜から石川県奥能登に移り住み、百姓仕事に精を出す版画家の江崎満。里山にはアカショウビンやヤマセミが姿を見せ、たんぼにはメダカやドジョウが泳ぎ、蛍が舞う。野良仕事の合間に版画を彫り、友の力を借りて窯を焚き、夜には星見台に上って宇宙と交感する。版画を始めたのも、能登へ移ったのも、息子「海」が導いてくれた道。その海の墓標の桜の木が毎年花をつけ、「空に向かってあっはっはと呵々大笑する」。そんなおおらかな里山の暮しの中からふつふつとわき出た版画家のつぶやきが一冊の本となった。添えられた版画作品が生き生きとした生命力にあふれ、ひきつけられる。「何かを作るのではない。自分の今生きている呼吸とリズムを刻みたいのである。湧いてくる躍動や力をぶつけたい」という著者の、生命賛歌に満ちたエッセー集である。

[ソトコト 2003年7月号]

ソトコト的生きる哲学
21世紀サバイバル

 昆虫、ふくろう、カエル、木々、田んぼの稲、畑の白菜……。世界は生命に満ちている

 この本を読んで、まず土が恋しくなった。カマキリやカエルにも、久しぶりに会ってみたくなった。版画家である著者は、石川県奥能登で暮らし、農作業の合間に版画をつくり、手づくりの窯で焼き物をしている。

 本書はその生活をテーマにした初エッセイ集だが、その暮らしぶり、視点は豪快かつ繊細、力強さに満ちている。例えば畑で出会ったカマキリに威嚇される場面。「カマキリは全存在をかけて、こちらに来るな、来たら容赦はしないぞと言っている。周囲は緊迫感がみなぎり、何だかドキドキするではないか」。こちらまで子ども時代の遠い感触がよみがえってくる。

 著者はとにかくモノをよく見る。育てているトマトを見ているうち、トマトが土から養分を吸い上げ、太陽から光を受け、エネルギーを生み出しているつながりまで見てしまう。最後にはトマトを見つめている著者自身までがトマトになってしまうのだ。

 本書には版画作品12点もカラーで所収されているが、エッセイと併せて読むと、その生命力のみなぎった作品がどうやって生まれているのかがわかり興味深い。重度障害を持つことになった息子の誕生からの葛藤、そして到達した一つの出会いの物語は、生きることの意味を考えさせてくれる。


本の詳細を見る→ISBN4-88008-287-2 C0095

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