ソトコト的生きる哲学
21世紀サバイバル
昆虫、ふくろう、カエル、木々、田んぼの稲、畑の白菜……。世界は生命に満ちている
この本を読んで、まず土が恋しくなった。カマキリやカエルにも、久しぶりに会ってみたくなった。版画家である著者は、石川県奥能登で暮らし、農作業の合間に版画をつくり、手づくりの窯で焼き物をしている。
本書はその生活をテーマにした初エッセイ集だが、その暮らしぶり、視点は豪快かつ繊細、力強さに満ちている。例えば畑で出会ったカマキリに威嚇される場面。「カマキリは全存在をかけて、こちらに来るな、来たら容赦はしないぞと言っている。周囲は緊迫感がみなぎり、何だかドキドキするではないか」。こちらまで子ども時代の遠い感触がよみがえってくる。
著者はとにかくモノをよく見る。育てているトマトを見ているうち、トマトが土から養分を吸い上げ、太陽から光を受け、エネルギーを生み出しているつながりまで見てしまう。最後にはトマトを見つめている著者自身までがトマトになってしまうのだ。
本書には版画作品12点もカラーで所収されているが、エッセイと併せて読むと、その生命力のみなぎった作品がどうやって生まれているのかがわかり興味深い。重度障害を持つことになった息子の誕生からの葛藤、そして到達した一つの出会いの物語は、生きることの意味を考えさせてくれる。
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