ああ

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読むより使い込んでほしい本
高垣千尋

[2002年4月26日]

 『コレあげよっと』は、毎日新聞東京本社版の生活家庭面に、1997年11月から2001年3月まで162回にわたって連載した、同名のモノ紹介のコラムがベースになっています。もとはといえば、ちょっと気のきいたモノを誰かにあげたいな‥というときの、お役立ち情報になればと始めたコラムでした。価格もワンコインでおつりの来るものも含め、1000円、2000円といった、気軽な値段のものばかりです。

よく、「限られた紙面ではチョメチョメ」といった言い訳がましいフレーズが使われますが、わがコラムの場合は、写真を入れてもわずか5×15cmのスペース。これじゃ小さすぎて、言いたいことが伝えきれな~いと何度嘆いたことでしょう。ところが筆者の懸念をよそに、記事の小ささは、それほどマイナスにはならなかったようなのです。

コラムでは、文末に必ず「どこそこデパート○×売り場」というように、商品を見つけた場所(おもに都心のデパートですが)を表記していました。その売り場へ、掲載当日から、皆さん新聞の切抜き持参で続々買い物にみえるというではありませんか。しかも、たたんだ切抜きを”財布のなかから”取り出す人が多いと聞いては、コラムの小ささもまんざら捨てたもんじゃなかったわけです。

もうひとつ筆者にとって意外だったこと。それは、紹介した売り場のほとんどがデパートゆえ、じっさい買い物に来るのは女性中心と思っていたら、男性客もかなり多かったということ。新聞を読んだ奥様に頼まれ、会社帰りに買い物していく素敵なダンナ様のほか、わが目で実物を確かめに来店し、しっかり意見を述べて帰る、手強いオジサンも多かったと聞きます。掲載後のこうした情報は、デパートの広報さんが調べてくださいました。

昨年の春、コラムを本にまとめてみませんかと新宿書房さんからお話をいただいたときは、正直言って、少し心配でした。新聞のように、取材・執筆後、すみやかに記事が掲載され、読者が買い物に行くという短いサイクルを前提に紹介してきたアイテムの積み重ねが、1冊の本たりえるのか。単行本化となれば、古くは1997年の連載当初にさかのぼり、すべての紹介商品のデータを洗い直さなければなりません。

この膨大な作業は、とても著者ひとりの手に負えるものではなく、デパート広報の方々や新宿書房さんに助力いただきながら、1年近い時間を要してしまいました。しかもフタをあけてみると、紹介した商品の約1/3が、製造・輸入・取り扱い中止などの事情で、再紹介できなくなっていたのです。モノのあわれを感じずにはいられませんでしたなぁ。

ということで、単行本化に際し、さらに数十アイテムを取材加筆することにしました。結果、この本で紹介した約200アイテムは、あらゆる”中止”の雨ニモ風ニモ負ケナカッタ兵ぞろい。今となっては、そう目新しくない、何の変哲もないアイテムだったりもしますが、このご時世をサバイバルした、それなりのストーリーと実力のある証とも取れるのです。著者としては、このなかから、あらたなロングセラー商品が生まれてくれることを望まずにはいられません。

バブルの終焉とか、先の見えない不況などで、消費者の財布のヒモはすっかり固くなってしまいました。けれど、誰かにチョットしたものをあげて喜ばれたい気持ち、自分にご褒美をあげたくなる気持ちって、変わらないのでは? そんなときのガイドブックとして、読むというより、じっさい使っていただければすごくうれしいです。

*著者(たかがき・ちひろ)は『コレあげよっと』の著者。プロダクト・ライター/シネマエッセイスト。