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志賀田孝史

ウプサラ・コミューンについて

 ウプサラは、1477年に創設された北欧最古の大学、ウプサラ大学を中心に発展した街で、コミューンの人口は19万人ほど。19万人というと少ないようにも感じられるが、スウェーデンでは4番目の大都市である。面積は2523平方キロメートル,ウプサラ・レーン(日本で言えば都道府県に相当:前回のコラムを参照)のランスティング(日本の県庁に相当)所在地でもある。ちなみにウプサラ・レーンの人口は30万人弱(面積7183平方キロメートル)で、他にエンシェーピン、エストハンマールといったコミューンがある。しかしウプサラのコミューンにせよレーンにせよ広い。日本で最も広い市町村は2003年4月に清水市と合併した静岡市だが、その面積が1370平方キロメートルで、その倍近い。神奈川県の面積がおよそ2300平方キロメートル、佐賀県が2400平方キロメートルだから、小さめの県なみの広さである。また、ウプサラ・レーンの面積と日本の都道府県の面積を比較してみると、高知県の7100平方キロメートル、山形県の7400平方キロメートルあたりが近い。ウプサラ・レーンはスウェーデン国内のレーンとしては小さい方だが、それが日本の高知県や山形県と同じ程度の広さなのだ。

 市(本当はコミューンだが、以後「市」とよぶことにする)の中心にはフィーリス川が流れている。市街地もこの川に沿って広がっている。川の西岸には大学や大聖堂があり、東岸に商店街や駅がある。駅前の通りにランスティングやレーンのビル、市民劇場などがあり、そこから1,2本入ったところが街いちばんの目抜き通り、クングセンスガータン、である。バスターミナルのある大広場(ストーラトーリエ)が通りの中心にあり、その周囲が繁華街で、一般の商店、ショッピングモール、銀行や市立図書館などが軒を連ねている。ショッピングモールはいくつもあって、その中には専門店やスーパーが入っている。こういう施設は寒く、雪の多い冬場でも快適にショッピングが楽しめるようにという工夫である。北欧の町中を歩くと、たいていこうした大きなショッピングモールがいくつかならぶ。もっとも、近年はアメリカや他のヨーロッパ諸国と同様、郊外に巨大スーパーが進出したりして、こうした市街地の商店も大変なようだ。他に、市内にある娯楽施設としては、先述した市民劇場のほか、映画館が2,3ある。学生も多い街だから、ライブハウスのようなものもある。夏にはサーカスなどもやって来る。

 この目抜き通りを南に歩くと筆者が参加したサマーコースの行われた建物があって、さらに行った通りの端には市立公園がある。広く緑が多い公園で、行った当時は夏場でもあったので、晴れている日にはみんな日光浴したり、ジョギングしたり、弁当を広げてちょっとしたハイキングを楽しんでいる人々などでにぎわっていた。

 川を渡ると博物館や図書館など大学関係の施設が散在し、大聖堂(ドムシルキャン)、お城などがある。また、大聖堂の裏手は広大な墓地になっていて、その向こうに住宅街や教職員や学生のための集合住宅が広がっている。筆者が講習の間、寝泊まりしたのは学生向けのドミトリーだが、それも同じ地区にあった。どこにも公園や広場が多く、そういったところには必ず木が植わっていて、さらに大通りには必ず街路樹があるので、緑は町中にあふれている。野生動物もたくさんいる。筆者も墓地や公園などで何度かヤマアラシとか、野ウサギなどを目にした。町中に緑あふれる環境というのは、緑の貧弱な日本の都市に住む筆者にとっては実にうらやましいかぎりであった。

 市内を流れるフィーリス川は、メーラレン湖に流れこむ。メーラレン湖のバルト海側はストックホルムにつながっているので、かつては水運もさかんだったという。地の利と水の利のおかげで、現在まで工業はさかんだし、近年ではウプサラ大学との産学共同研究なども活発で、産業面でもいきおいのある市ではないかと思う。なお、いまでも夏の観光シーズンには、ストックホルムまでの観光船が行き来している。

 しかしなんといってもウプサラの中心はウプサラ大学だろう。市の中心部は、それこそ大学の中に街があるといってもよいくらいに大学関連の施設が多い。学術研究の面では国際的にも評価の高い大学だけに、留学や研究をしにやって来る外国人も多い(35000人という)。もちろん日本人も多く、日本人会もある。そこの有志の方々が「ウプサラ生活便利ガイド」というホームページをつくっている(http://members.tripod.co.jp/tatsuomori/Seikatu00.htm)。このサイト、役所の手続きや買い物、はてはゴミの分別まで、ウプサラでの生活がどのようなものかわかって興味深い。

 こういう街だから、ウプサラで生まれたり、ウプサラ大学にゆかりのある人もたくさんいる。たとえば映画監督のイングマール・ベルイマンはウプサラに生まれた。リンネやセルシウス、オングストレムらの科学者はみんなウプサラ大学の出身である。このほかにもウプサラ大学はノーベル賞受賞者を多数輩出している。受賞者の名を冠した研究所やら建物も数多い。このようにウプサラ大学は産学共同研究がさかんなことともあわせ、名実ともにスウェーデンの科学技術研究の最前線といえるだろう。もちろん、理工系だけでなく、文科系の学科や専攻もある。ただ残念なことに、ウプサラ大学には日本や日本語を学ぶ学科やコースはないそうだ。大学のオフィシャルサイトには、概要だけだが日本語のホームページもあるので興味のある方はご覧をhttp://info.uu.se/fakta.nsf/sidor/uppsala.university.idD3.html

 ほかにも市の中心からバスで20分ほど行ったところにはガムラウプサラ(旧ウプサラ)という古代の王族の墳墓群などがある旧蹟もある。観光地については他にももっといろいろ紹介したいが、長くなってしまったので今回はこのくらいにしておこう。というわけで次回はウプサラ・トラベルガイドにしたいと思います。

 なにはともあれウプサラはストックホルム中央駅からは電車で40分ほど。本数も15~20分に1本と頻繁にあるので、スウェーデンに旅行する機会があれば足を延ばしてみてはいかがだろう。市街地からガムラウプサラまでまわっても1日あれば十分観光できる。ストックホルムのような大都会とはちがう、スウェーデンの普通の街のようすもよくわかる。スウェーデンの「日常」を肌で感じるいい機会になると思う。


*志賀田孝史(しかた・たかし)は編集者。北欧おたくが高じて今夏、スウェーデン語を学びにスウェーデンまで行ってきた。

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