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関 沢 英 彦
最近は、書名がキャッチフレーズのように鋭くなってきました。
金井美恵子『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へ』(講談社)は「あれっ」と思わせるものがあります。
映画監督・青山真治のノベライゼーションが三島由紀夫賞をとったことについてのエッセイの題名です。決して、青山さんを貶めている内容ではありませんが。その他、結構、どきどきするタイトルが多いエッセイ集で、ついページをめくってしまいます。
佐野洋子『神も仏もありませぬ』(筑摩書房)も、「おやっ」とさせます。「そして私は不機嫌なまま六十五才になった」という帯がいいです。本の最後に出てくるフレーズかな。
高橋 康也『まちがいの狂言』(白水社)は「まちがい」と「狂言」の組み合わせが印象的。表紙のお面でもどっきりします。シェイクスピアの翻案狂言である「法螺侍」と「まちがいの狂言」を収録しています。「ややこしや・・ややこしや」
ワリス・ディリー 武者圭子訳『ディリー、砂漠に帰る』(草思社)は、元スーパーモデルのとても強い視線にひかれて手を取りました。「砂漠に帰る」という言葉にも「?」が浮かんでついつい、パラパラ。文頭で、「お母さんに会いに帰ったんだ」と分かると、「お母さんに会えたのかしらん」と書店店頭ではありますが、読み進む私でありました。結局、「会えたんですね」。そして、ディリーは「一緒に帰ろう」というのですが…。ソマリアの厳しさと魅力がどの行にも満ちていて。本の最初のセンテンスは「ソマリアでは、悪魔は白いことになっている」と始まります。
「外国の諺を思い出していた。『悪魔は絵で見るより黒くない』」という文章が載っているのは伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』(東京創元社)。アパートで出会った隣人との間でドラマが始まるらしいというところで、残念ながら書店を出たのであります。
そうそう、アルフレッド・W・クロスビー 小沢千重子訳『数量化革命』(紀伊國屋書店)で悪魔ばらいをしてから後、店を出たのだった。数量化と視覚化が、西洋文明を圧倒的な地位に押し上げていったということが分かりやすく書かれています。
でも、店を出て少し歩くと、「数量化」自体も「悪魔の仕業」のように思えてきて。銀座の夜風が冷たいのです。
関沢英彦のコラムへのリンク http://www.athill.com
*著者:関沢英彦(せきざわ・ひでひこ) 東京経済大学教授・博報堂生活総合研究所所長。最新刊『生活という速度』
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