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 関 沢 英 彦

小説は読まないけれど、作家になりたい人が増えているそうです。読書家ではないが、自費出版に踏み切る人がいます。読み手よりも、作り手になりたがる時代なのでしょうか。

いまでも、平積みのコーナーに行くと、『読書日記』『読書連想型エッセイ集』といった書籍が並んでいます。しかし、作り手側に立った本が増えてきた感じがしますね。

野口悠紀雄『「超」文章法』(中公新書)は「伝えたいことをどう書くか」について分かりやすく書いてある。「感動」を与えるのが目的でない実務のための文章。実は、こうした基礎的な技能が失われているのかも知れません。

林望『文章術の千本ノック』(小学館)は、素人の文章は無駄が多いという指摘から始まります。削ること、引き算をすることから「書くこと」は始まるとリンボー先生はいう。「どうすれば品格ある日本語が書けるか」という問題意識が鮮明です。

鈴木一誌『ページと力』(青土社)は、ページネーションというテーマから本は始まります。活字が行を作り、行がページとなる。ページが重なって一冊の書籍となっていく。言われて見れば当たり前のことですが、編集者ではない私には新鮮です。

「デジタル時代を迎えたデザインは『情報を公開する技術』としての性格を強め、そこに出現した文字は、言葉とのズレとの不安にふるえている」(同書より)。

コミュニケーションの送り手側に立ちたい人が増えていく。さて、そのとき十分に受け手となってくれる人は確保できるのでしょうか。

関沢英彦のコラムへのリンク http://www.athill.com

*著者(せきざわ・ひでひこ)は、博報堂生活総合研究所所長。

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