中上哲夫 チャールズ・ブコウスキー追悼 酒ではなく 腹上死でもなく 白血病で タフで 酒と女とギャンブルに沈潜した ゴリラのような大男 「二日酔いが おれの常態さ」 ロシア人かポーランド人のような 名前だけど 二歳のとき ドイツから アメリカへやってきて 以来、ずっと --死ぬまで-- ロスアンゼルスに住んだ ビートたちが華々しく活躍していたとき ロスアンゼルスで郵便物を仕分けし 配って歩いた 「おれはビートではない パンクだ」 大学でもレストランでも怪しげなバーでも どこへでも出かけていって 詩を読んだ あるいは酔っぱらって-- 終ると 聴衆や主催者を誘惑した ベッドへ 五十冊の著書を残して 七十四歳で死んだ 遅れてやってきたビート (作品は『ビート・アンソロジー』に入れられ かれが死んだとき もっとも悲しんだのは ビートたちだった) 鳴りつづける屋根の上のラジオ*のように ガッツのある男だったよね いまごろは 天国のバーで 酒くさい息をはきながら性懲りもなく女たちに言い寄っているはずさ
*チャールズ・ブコウスキーの詩「ガッツのあるラジオ」参照(『ブコウスキー詩集』所収)。 *筆者(なかがみ・てつお)は詩人、翻訳者。 |