1.カオハガン島への道 カオハガン島とは? カオハガン島の詳しい特徴や状況については『何もなくて豊かな島』(新潮社)などの崎山氏の数々の著作を読んでいただくこととして、ここでは簡単な紹介にとどめる。
当時、島には約300人の住民が違法に住み着いていて、氏の知人たちは後々のトラブルを避けるためにも住民たちを追い出してしまった方がよいと忠告したが、氏は住民たちとの共存を選択。文化も違い、経済格差も大きい国から来た「新オーナー」は、カオハガン島民を、いたずらに刺激することはせず、彼らが守ってきた生活習慣を尊重しつつ、公衆衛生や教育など、住民の生活改善に協力できることはすすめ、住民から「サキ」の愛称で呼ばれて慕われるほど、両者はとてもよい関係を築いている。 いっぽうで、崎山氏自身がカオハガン島に移り住むきっかけともなった、日本を含む欧米型資本主義経済の物質万能主義的生き方に対する疑問と問いかけは、日本の多くの人々の賛同と共感を得、若い人を中心に結成された組織「南の島から」を中心として、日本に住む我々の生活スタイルや価値観への反省と再考を促すこととなった。 このように生活水準も価値観も異なる両国の人々が、相互に影響し合うという、一風変わった島なのである。 崎山氏は、この島にロッジを設けて、会員および一般の人々を宿泊客として受け入れており、今回ぶらぶら猫は一般宿泊客として、新年を迎える7泊をこの島で過ごした。 カオハガン島とぶらぶら猫の出会い ところが宿の方は問題無く予約できたが、同時にお願いしたセブ島までの航空券が既にキャンセル待ちであるという。例年のように年末までにはキャンセルが出るであろうと楽観的な気持ちで待っていたが、待てどもオンワードさんからチケットが取れたという連絡はない。しかも、9月11日のアメリカ同時多発テロの影響による海外旅行者の激減や、フィリピンに外務省による危険度2「観光旅行延期勧告」が出されて、フィリピン航空は減便を余儀なくされているという報道を聞きながらだ。一度は目的地の変更も考えたが、フィリピン航空に直接電話を入れ、予定の日を2日早めることで、なんとか航空券を獲得して、カオハガン島へと向かうことになった。 ■カオハガン島全景■ 不安な空港到着 今回の旅行では空港と島の間の送迎をお願いしてあったので、ガイドブックに目を通すこともなく(島のガイドブックは崎山氏の著作に優るものはない)セブ空港に到着した。ところが飛行機が予定より少し早く着き過ぎたために島からの迎えの人間が間に合わず、ホテルやタクシーの客引きに取り巻かれながら待たなければならなかった。差別的発言と取られないことを祈るが、いつもながら日本よりもはるかに貧しい国を訪れた時のこうした面倒くささは、あまり好きになれるものではない。 ようやく島の若者が到着し、「タクシー」に乗り込む。崎山氏の著作を読んだ人間ならば皆そうだと思うが、本の中に出てくる、あの「監獄のような」荷台のついたトラックが来るものとばかり思っていたから、普通のセダンでやってきた若者が本当に島の迎えなのか安心できずに、道中、本で読んだ知識を駆使して、「今、島には何人の日本人がいるのか?」「崎山さんはいい人か?」など、島について幾つか質問しながら、少しずつ不安を解いていく。途中、大勢の人間が乗り込んでいる、派手なトラックを改造したバスに何度かすれ違い、「ああ、アジアの町に来たのだな」と久しぶりの開発途上国訪問に思う。ちなみにくだんの「監獄トラック」は既に「引退」したとのことである。 やがて、車は真っ暗な電灯ひとつない道に入り込む。「やっぱり怪しい車に乗ってしまったか?」と思うのもつかの間、我々は舟の待つホテルへと到着した。 ■崎山氏の船「アミハンII号」■ パムボートに乗って 海の中を歩かなければならないかもしれないから短パンに着替えるように言われていたが、拍子抜けするほど簡単に島上陸を果たせたのだ。 行きはこのように何の苦もなく島へ渡ることができたのであるが、帰りは少し大変な思いをすることになる。潮の高いうちに出発しなければならないために朝3時起床なのはいいとして、サカヤンと呼ばれるエンジンのつかない小さな船で島を離れ、沖合いに停泊する大きな舟(崎山氏所有の島で一番大きな舟「アミハンII号」に乗り換え、マクタン島近くまで来たところで、またサカヤンで移動。そして最後は舟を降りて、海中を歩いて岸まで辿りつかなければならなかった。アミハンII号に乗り移る際に運悪く雨にたたられ、おかげで完成したばかりだというアミハンII号のクルージングは、優雅な航海とはいかず、寒さにぶるぶると震えながらの、まるで難民船の航海のようになってしまった。それでも、島に来る途中で船のスクリューが壊れて漂流したという人もいるらしいから、これなど困難のうちには入らないのかもしれない。いずれにせよ、交通機関のバッチリ整備されたリゾート地とは趣を異にした、野趣あふれる、今となっては楽しい経験をすることができた。 ■初代アミハン号■ カオハガン上陸 食事を終えた後、少し湿り気を含んだ心地よい南国の風に吹かれながら眠りについた…と書きたいところだが、海岸から吹きつける突風に震えながら寝たというのが本当であった。 ■宿泊用ロッジA~D■ ●カオハガン島に関する書籍 ●カオハガン島に行くには ●カオハガン島関係団体などの連絡先 *筆者 藤野優哉(ふじの・ゆうや):元編集者。1999年より1年間、絵描きを目ざしてパリに留学。3月に新宿書房より『ぶらぶら猫のパリ散歩──都市としてのパリの魅力研究』刊行。 |