三木カオス

[2003/11/12]


(2)

thing

 小惑星ケイオスには、いつもあぶら汗をかいている男が住んでいました。いつまでたってもよその星の言葉を思うように話せず、読み書きもえらく苦労しています。

「きょうは、どんなことであぶら汗をかいているのですか?」
そう聞かれると、男は額をぬぐいながら
「これですよ、これ」
と読んでいる本を見せてくれました。それはThe Little Princeという絵本でした。

……砂漠へ不時着したパイロットに王子がちかづき、いろいろな質問をします。彼
にとっては、飛行機も得体の知れないものでした。
‘What's that thing over there?’
王子にそう聞かれて、パイロットは答えます。
‘That is not a thing. It flies. It's an aeroplane. It's my aeroplane’

………That is not a thing. 男はその意味がわからなかったのです。それで、内藤濯氏の日本語訳・星の王子さまを見たら、「それはしなもの・・・・じゃない」とありました。男は頭がわるく、こっちもよくわかりませんでした。そこで改めて辞書をひいてみると、thingには生命や動物などの意味があることがわかりました。そうか! 王子に、あれはなんという生き物か、と聞かれてパイロットが「あれは生き物じゃない、飛行機だ」と答えたに違いない。こっちの解釈の方が正しい! 男は興奮しました。

 しかし、ものごと・・・・はそう簡単にいきません。美人で聡明な友人Mさんが、thingは別の英訳ではobjectになっており、原文のフランス語はchose(object)だから生き物ではないでしょう、と教えてくれました。男は気負った自分が恥ずかしく、またあぶら汗をかくでのでした。でもフランス語はともかく、これがきっかけで英語のthingが生き物も意味することを知りました。

Many thanks to Marlie.

●英語の恥など程度の差こそあれ、誰だってあるでしょう。病気自慢があれば恥自慢があっていいのでは…「それだったら、こんなのどうだ」とお寄せくださると、うれしい。

*著者:三木カオス(本名・並木可雄) 広告会社クリエイティブ・ディレクター(現在バンコク駐在)

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あああ
あああああああ