娘が中学生になったとき興味本位で英語を教えたばっかりに、いっとき親子関係が危うくなったことがあります。争いの元となったもののひとつが、うるさく変化する英語の単数/複数で、三単現のSなんかいじめの材料でしかなかった。ところが、「英語は数にうるさい」と利いた風に教えた手前はどうかというと、これが何10年やっても身につかない。
旅先のホテルでエレベータに乗っていたときのことです。ツアー客がいっせいにチェックインしたせいで、リフトは混んでいました。まもなく何階かで降りようとした初老の男性が、中ほどから進み出て戸口にいるぼくに向かい、こう言いました。
Excuse us.
.........us なじみのない言い方だった。しかし、振り返ればなるほど後ろに奥さんと見られるご婦人がついていたのです。その階で降りるのは男性一人ではなく夫婦、つまり複数扱いということで
Excuse me.でなくExcuse us.だったのですね。言われてみればなんということもないのですが、少なくともぼくはそういう言い方をしたことがなかった。一人だろうと二人だろうと、「ちょっと失礼」はExcuse
me.で通してきたのです。つまり、数にうるさい英語を改めて体得したというわけです。以後、ワイフといっしょに旅行するときは恥ずかしながらExcuse
us.ということにしていますが....
しかし、別の機会にやはり混んだエレベータで後ろから声をかけられましたが、そのときはこの語法が適用されていなかった。Excuse
me.という中年男を振り返って見れば、年格好はほぼこっちと同じ。だけど、あっちは一人じゃない。いかにもという美人がついていた。するとなにかい、夫婦のときはExcuse
us.で、愛人といっしょの場合はExcuse me.っていうのか。べらぼうめ、英語は数にうるさいっていうだろうが。
●英語の恥など程度の差こそあれ、誰だってあるでしょう。病気自慢があれば恥自慢があっていいのでは...「それだったら、こんなのどうだ」とお寄せくださると、うれいしい。
*著者:三木カオス(本名・並木可雄) 広告会社クリエイティブ・ディレクター(現在バンコク駐在)
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