Vol.57 [2003/12/26]

パリ・シークレット・プロムナード
『パリ半日ぶらぶら散歩』

 パリは都市の傑作といわれる。本書は新しい魅力と歴史的な雰囲気にあふれるパリの街を散歩する、オールカラーのガイドブック。こんなパリがあったのか! こんな路地があったのか!いまだ知られぬ13の散歩道が、素敵で洒落たイラストを手にして、まるで本物のガイドさんと歩くように、パノラミックに展開される。

 シャンソンの名曲「サクランボの実る頃」という名のカフェのある通り。映画『勝手にしやがれ』のラストシーンが撮影された通り。

 「エッフェル塔とモンパルナス・タワーはどっちが重い?」「劇作家モリエールやラシーヌがよく出入りした16区にある居酒屋の名は?」「フランス共産党本部の建物を設計したひとは?」 そう、本書では「パリのトリビア」を思う存分楽しむこともできる。

 「最高の散歩ガイドであるこの本のページをめくるたびに、新しい発見がある」(『ゴー・ミヨー』誌)「この本はまるで鉛筆と絵筆を持ち、メトロの切符をポケットにパリ探検にでかけた探検家の日記のようだ。数々の発見が、文章とイラストによって、丁寧に描かれている」(『フィガロ』紙)と、パリっ子も絶賛するロングセラーの待望の翻訳!

 いまこの国に住む私たちにも、普段着でパリを散歩する時間が必要だ。まさに「時速3kmの思考」(関沢英彦『生活という速度』)と時間のなかで、パリの街を歩こうではないか。
・・・・・「今週のピカイチ本」『週刊朝日』2004年 1/2・9新春合併号より


 翻訳本出版の楽しさ、難しさはいろいろある。また、文字だけの本と違い、ビジュアル本の場合は、写真やイラストをどう再現するかが問題になる。

 昔は印刷フィルムあるいはポジフィルムを送ってもらったりした。あるいは、原書の印刷されている写真を複写してそのまま使用した。いまのデジタル時代はどうか。多少のお金をはらうと、あちらのデータがCDーRでポーンと郵送されてくる。これにパソコン上で日本語のテキストを張り付けることで、データが完成する。再現性は格段にあがる。

 しかし、画像の大きさに合わせて、日本語の翻訳文を当てはめるには、フランス語からの日本語翻訳文がどうしても原文より多くなることから、翻訳者は絵に文字がかからないように、けっこう工夫をする。本書の日本語がイラストの間を縫ってうまく収まっているのは、ひとえに訳者、藤野優哉氏の力によるものである。

 翻訳書の楽しみは原書を越えるなにかのパーツをつくることができるかにある。今回は訳注と索引。本書の原書の初版は1998年。翻訳者の藤野氏は、原書とパリの現状の相違点について、できるだけ最新の情報に書き改めている。欄外の注記も、日本語の読者にはとても親切だ。

 本書のオマケの圧巻は、原書にない索引だろう。「地名(通り・広場・駅など)」「建物・団体名(記念建造物・美術館)」「人名」「作品名」「その他用語」の大カテゴリーに分けられた項目が並ぶ。

 藤野氏の執念はここで終わらず、各カテゴリーの中の索引項目をさらに小さなカテゴリーに分類する。「地名」だと、「大通り・通り・小道など」「公園・広場など」「墓地」「河・運河・港など」「橋」「駅」「その他」に分類される。“幸い”オールカラーの本書だからできるこわざを繰り出した。各項目の頭に小カテゴリーの色ダマをつけた。

 編集部はこの色ダマ校正に悩まされた。キンコーズで出力したカラーコピーではなかなか判別できない。目を凝らしての校正となった。

 最後のオマケ。それは、後ろカバー袖(フラップ)に収まっている「パリのメトロ・RER(近郊高速鉄道)路線図」だ。これも訳者藤野氏のデザインによる、オリジナル地図だ。

 さあ、本書をもって、パリをぶらぶら散歩しよう。本書を読みながら、路地の中に入っていこう。訳者藤野優哉氏が、どんなにパリを愛しているか、よくわかってくるに違いない。

三栄町路地裏・目次へ戻る