翻訳本出版の楽しさ、難しさはいろいろある。また、文字だけの本と違い、ビジュアル本の場合は、写真やイラストをどう再現するかが問題になる。
昔は印刷フィルムあるいはポジフィルムを送ってもらったりした。あるいは、原書の印刷されている写真を複写してそのまま使用した。いまのデジタル時代はどうか。多少のお金をはらうと、あちらのデータがCDーRでポーンと郵送されてくる。これにパソコン上で日本語のテキストを張り付けることで、データが完成する。再現性は格段にあがる。
しかし、画像の大きさに合わせて、日本語の翻訳文を当てはめるには、フランス語からの日本語翻訳文がどうしても原文より多くなることから、翻訳者は絵に文字がかからないように、けっこう工夫をする。本書の日本語がイラストの間を縫ってうまく収まっているのは、ひとえに訳者、藤野優哉氏の力によるものである。
翻訳書の楽しみは原書を越えるなにかのパーツをつくることができるかにある。今回は訳注と索引。本書の原書の初版は1998年。翻訳者の藤野氏は、原書とパリの現状の相違点について、できるだけ最新の情報に書き改めている。欄外の注記も、日本語の読者にはとても親切だ。
本書のオマケの圧巻は、原書にない索引だろう。「地名(通り・広場・駅など)」「建物・団体名(記念建造物・美術館)」「人名」「作品名」「その他用語」の大カテゴリーに分けられた項目が並ぶ。
藤野氏の執念はここで終わらず、各カテゴリーの中の索引項目をさらに小さなカテゴリーに分類する。「地名」だと、「大通り・通り・小道など」「公園・広場など」「墓地」「河・運河・港など」「橋」「駅」「その他」に分類される。“幸い”オールカラーの本書だからできるこわざを繰り出した。各項目の頭に小カテゴリーの色ダマをつけた。
編集部はこの色ダマ校正に悩まされた。キンコーズで出力したカラーコピーではなかなか判別できない。目を凝らしての校正となった。
最後のオマケ。それは、後ろカバー袖(フラップ)に収まっている「パリのメトロ・RER(近郊高速鉄道)路線図」だ。これも訳者藤野氏のデザインによる、オリジナル地図だ。
さあ、本書をもって、パリをぶらぶら散歩しよう。本書を読みながら、路地の中に入っていこう。訳者藤野優哉氏が、どんなにパリを愛しているか、よくわかってくるに違いない。