Vol.54 [2003/07/13]

坂手洋二『私たちはこうして二十世紀を越えた』
非・常識な本の誕生

 A5判上下二段組356ページ、原稿枚数1400枚。文字、文字ばかりの本。非・常識な本である。ニューヨークの日本人の間で評判の時評コラムがあるという噂を聞いたのが二年前のことであった。

 人気劇作家が「日本の面影」というタイトルで月に2回、それも1997年から延々と書き続けているという。日本ではまず読めないコラム。そして、実際ここ日本でだれもが触れることに躊躇するテーマが、ニューヨークの日本人の間で読まれている。タブーを恐れぬ坂手さんのその筆致に、軽い目眩を覚える。

 しかし、本にするにはいかにも長い。コラム集に分冊もありえない。この半分にしようと、いろいろやってみる。そうすると、クロニクルを短くするという難しさがよくわかる。いや、このコラム集の真骨頂は、この分厚いニュースの地層にあることがわかってきた。このまま出そう。

 安楽の全体主義(藤田省三)の世の中での、忘却の7年間の年代記。私たちはこうしてすべてを忘れていく。それに背反するために紙に刻まれた重さ700グラムの非・常識の本が誕生した。

(『本の窓』小学館、2003年8・9月合併号、「私が編集した本」より)

三栄町路地裏・目次へ戻る