Vol.42 [20002/06/15]

この本は出してはいけない

新泉社の小汀さんなどから、流対協に入らないかと再三誘われたのはずいぶん昔のことです。そのたびに、積極的に承諾も拒否もしないまま、ずっと過ごしてきました。

社歴30年の会社ながら、業績、実力ともまったくの新人並みいやそれ以下のレベルです。すっかり「ひきこもり出版」になった私に、たまには娑婆に出て来いというお誘い。ようやく、おずおずと穴倉から出てきた次第です。

ところで、先日の『出版ニュース』に掲載された「日本の出版統計」(2001年)をみて、いろいろ考えさせられました。それによると、日本の出版社数は4424社だそうで、ピークだった1997年より188社は減っているものの、前年より微増している。書店の廃業ラッシュに比べると、出版社は減ってはいない?

そして、なによりも驚いたのは出版社別新刊書籍点数です。第1位の講談社(2052点)に肉薄しているのが、第2位に入った自費出版のB社(1756点)なのです。この数字は、取次にエントリーして流通に入った書籍数ですから、それ以外の書籍をいれれば、B社が(新刊点数で)「講談社を抜いた」と豪語しているというのも、理解できます。

5月22日の朝日新聞の朝刊の文化欄では出版不況下での自費出版界の活況を「本は読むより読ませたい」と断じています。他人の本を読むより自分の本を出したい時代。

その記事によると、B社は2000年度の年商は42億円だといいます。同社の見積モデルから逆算すれば、ものすごい点数が出版されていることになります。自費出版専門の出版社はほかにS社(301点)、K社(163点)などかなりの数になり、総計すると年間新刊点数約70000点のうちの何割になるのでしょう。いまアマチュアの本が、お金で確保した大型書店の棚に飾られ、国会図書館に大量に納本されているのです。

わたしがいまこの個人出版に脅威を感じているには、その個人本の質の問題ではありません。人の金を当てにすることに、われわれ出版社自身がぐらついていることです。

「残したい本」「出したい本」「誰も出さない本」を出版してきたのが、われわれの先輩、同輩なら、「この本は出してはいけない」「この本はこうしないと出せない」「この本は道議的に許されない」といって、結果的にさまざま企画をつぶしてきたのも、われわれなのです。むしろそれこそが出版文化です。いまあらためて、「本を出さない」ようにプレスをかけることが必要ではないでしょうか。

「誰が本を殺したのか」というテーマの本が5万部売れたといいます。しかし、その本の殺人者の中に自費出版本は入っていません。この出版ポピュリズムともいうべき自費出版の大波に、零細小出版はどう対応するのか、ベンチの片隅にいるサブとして一緒に考えていきたいと願っています。

村山恒夫(代表) 

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以上の文は、小零細版元92社の連合組織「出版流津対策協議会(流対協)」の新刊案内『新刊選』に寄稿した文章です。
流対協:http://www.netlaputa.ne.jp/~ryuutai/               
         

 

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