vol.34

レンタルビデオ屋さんで考えたこと  [2002/01/23]

2001年末から2002年始めにかけて久しぶりにビデオ三昧の生活をおくり、まとめて最近の話題作を集中豪雨的にみた。(1)カウンターで会員カードを見せたら、半年まえに切れてますよといわれる。ずいぶんレンタル屋さんから足が遠のいていたのだ。

(1) わたしの選んだ今回のベスト映画は『アンジェラの灰』(アラン・パーカー監督)だ。原作はピューリッツアー賞受賞の元高校教師フランク・マコートの回想録。1930年代のアイルランドの町、リマリックの生活。アリス・テイラーの生まれ故郷もこのリマリックの隣の県だ。2位は『サイダーハウス・ルール』。

お店はよくお客が入っていて、けっこう繁盛しているようだ。駐車場に車を入れるのにもまたされる。多くの人々はこうして何本かのビデオを借り、ひそやかに年を越すのだ。しかし、変わらない。変わらないのはお店のレイアウトだし、品揃えだ。大げさにいえばその情報環境だ。リリース新作中心主義はいよいよ拍車がかかってきている。

これは貸出料が高く出来るし、貸出の連泊日も短く出来る。それは商売としては分かるが、新作ばかりを何十本も集めて棚を埋めることもないだろう。まるで、図書館の新刊コーナーと一緒だ。図書館は利用者のリクエストに応えて、ベストセラーを何十冊も買って、基本図書購入の予算を削っている。

ビデオ棚は本当に探しにくいし、分類もよくわらない、タイトル数もほんとうに少ない。さて、レンタルを決めると、ケースから透明なカヴァーに入った裸のカセットを抜いて、カウンターに持っていく。いつも自宅で見るときに困るのは、その見るビデオの情報がないことだ。カセットの腹にはもちろんタイトルのラベルは貼ってある。製造・発売元の会社名もある。でもそれだけ。腹ラベルはどうか。これもタイトルだけだ。ひどい製品になると、製造・発売元の会社の汎用ラベルしか貼っていない。

ケース(ボックス)に記載されている情報がなぜ、レンタル商品についてこないのだろうか。一体いつから、ケース(ボックス)なしの裸のカセットのままでレンタルするようになったんだろうか。お店のビデオ棚には頭のない空っぽのケースが誇らしげに並んでいる。確かにケースごと借りられたら、棚はがさがさになってみっともないだろうし、メーカーから余計にケースを買えばお金もかかる。

でも、これはレンタル屋さんの論理。お客のことなんてなんにも考えていない。ビデオ業界やレンタル業界では、なにかルールをもっていないのだろうか。

図書館では、大昔、カバーも帯も剥いで本表紙にビニールカバーを装備してた。さすがに今では、本のカバーも付いており、気のきいたところでは、帯の情報となる部分を切りとって、カバー裏の折り返しのところに貼っている場合もある。帯は腰巻文学賞の対象になるぐらい、編集者が頭をひねって、そのキャッチコピーを考えている。帯には有名人の推薦文もある。みんなその本に必要な情報なのである。

ビデオでも本と同じようにパッケージ(ボックス)にある情報を最後まで保存してユーザーの手元に運んでほしい。個人営業のビデオレンタル屋さんではコピーを挟むなどの小細工ができるし、全国展開しているチェーン店ではもっともっとサービスをしてほしい。最大手のT屋さんはレンタル店が1000店を超えるという。その規模なら、いろいろなことができるはずだ。(2)

(2) TSUTAYAのホームページ:http://www.tsutaya.co.jp
2001年12月現在で会員数はなんと約1600万人だという。総務省統計局によると、2000年現在の日本の人口は1億2691万9000人だから、すごい数字だ。わたしも入っているくらい。

こんなことはどうだろう。各店頭にお客用のソフトの検索端末を数台おいてほしい。検索端末は、いまやまともな図書館ではどこでもあるし、他の図書館の在庫の有無や取り寄せも可能だ。ビデオレンタル店では、希望作品がその店に無い場合は後日に取り寄せができるようにしたい。その場合は有料だってかまわない。(3)

(3) 知り合いを呼んで自分で映画祭が企画できる。キーワード検索で何本か取り寄せる。「旧ソ連侵攻後のアフガニスタン研究」をテーマに『ランボー3/怒りのアフガン』(1988)、『アフガニスタン・ 地獄の日々』(1986、角川映画)、『よみがえれカレーズ』(1989、記録社=シグロ)の3本立てを企画したり、「イギリス炭鉱映画祭」や「世界スリ映画祭」を開催する。

レンタル商品の作品情報を希望する者には、レジでプリントアウトしてあげる。もしくは希望者が棚の横にある端末機でプリントアウトできる。1000店もの店を抱えていれば、お客のリクエストに応じてお店同士でレンタル作品を流通できる。無駄な在庫をかかえず、効率よく動かすことが出来るはずだ。と同時にデータベースの構築も可能となる。

オンライン上では映画作品の検索はいくつかのデータベースで可能だ。(4)大手のビデオテンタル屋さんもパソコンやケータイでの対応が出来るようにしているが、お店でのリサーチとは、まったくつながっていない。(5)つまり、われわれはそこにあるものしか見られない。こんな荒涼たる知の風景があっていいのだろうか。

(4) 全洋画ON LINE:http://www.stingray-jp.com/allcinema/prog/index2.php3
日本映画データベース:http://www.jmdb.ne.jp/

(5) TSUTAYAのonlineでは「VIDEO&DVD」検索や「全メディア」検索ができる。後者はビデオやDVDだけでなく、CDや本まで案内してくれる。
例えば『LAコンフィデンシャル』を全メディアで検索すると、映画のほか、サントラ洋画オリジナルや文春文庫の原作本までが案内される。タイトル数を別にすれば、その複眼性は
bk1アマゾンドットコムよりすぐれている。しかし、これはすべて通販用の情報だ。

ビデオの製造・販売サイドだっていろいろ工夫が出来るはずだ。書籍には奥付の裏の頁に、既刊の同一著者の本を並べたり、投げ込みの冊子で関連図書の案内をする。もっともこれも気のきいた出版社だけだが。同じように、ビデオでも新作案内の予告編の中にその本編の予告編を再度収録することもできる。また、自社のバックリストのなかで、その本編の関連するスタッフやキャストの作品や原作本の案内もすればうれしい。(6)

(6) 映画と原作の危険な関係』という本をつくったことがある。

いまDVDビデオソフトの伸長がすざましいという。(7)DVDビデオなら、ソフト内でさまざまな検索が可能だし、サイド情報が埋め込むことができる。パソコンとつなげてインターネットへの接続もできる。これまでいってきたことすべてが簡単に実現できるかもしれない。ひっとしたら、映画ビデオの楽しみ方がかわるかもしれない。ただ、そのときレンタルビデオ屋さんのお店環境は変わっているのだろうか。

(7) 日本映像ソフト協会:http://www.jva-net.or.jp
2000年の統計調査報告によると、DVDビデオ売り上げが前年度比で3倍に急増し、カセットに肉薄しているという。これは2001年ではより顕著になっているにちがいない。日本も本格的なDVD時代に突入している。『
DVD&ビデオでーたー』のサイトでもその勢いはわかる。ビデオのセルとレンタルの間でドラスティックな変動がおこる気もする。
(8) このコラムをリリースした後、若い編集者のSさんにあったところ、彼が熱狂的な『アンジェラの灰』ファンであることがわかった。
その彼から「『アンジェラの灰』友の会」という団体とそのHPを教えてもらった。
アンジェラの灰 友の会:http://www.asahi-net.or.jp/~gd9j-tro/angela.htm

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