vol.29

四谷三栄町耳袋(8)  [2001/11/12]

ガリ版文化史』の共著者であり『ガリ版文化を歩く』の著者である志村章子さんが主宰する「ガリ版ネットワーク」が7周年をむかえ、このほど同通信の第3期No.2(通信17号)が刊行された。

今号は34ページと内容が充実している。
主な目次には「ガリ版ネットワーク日記」(2001年1月~9月)、「中央謄写学院の思い出」(市川敬三)、「ルポ“もう一つの謄写版”(山内不二門の毛筆謄写版)誕生の地を訪ねて」(志村章子)「映画のなかのガリ版――『足摺岬』のこと」(高橋楚将)など。最後のコラムには〈ガリ版の登場する映画〉のリストがのっているのがうれしい。

*左の画像をクリックすると拡大したものがご覧になれます。

同号の新刊案内に紹介されている『古本共和国』(No.16早稲田青空古本祭記念連合目録)の「特集 ガリ版の魅力」に掲載されているエッセイを志村章子さんの許可をいただいて、以下紹介します。



ガリ版ネットワークの七年

志村章子
フリ-ジャーナリスト
「ガリ板ネットワーク」代表


「ガリ版ネットワーク」誕生のきっかけは、東京経済大学主催の「ガリ版の百年―等身大のコミニュケーション・ツール」イベント(展示会とシンポジウム、1994年6月9日~12日開催)である。80年代半ばに『ガリ版文化史』(田村紀雄氏との共編著、新宿書房)を出し、その後も資料発掘や関連者への取材を続けていた私が、同展の企画・運営に加わることになった。
 タイトル名の「ガリ版の百年」とは、エジソンのミメオグラフに多くのヒントを得た、堀井新治郎父子の簡易印刷器「謄写版」の発明年(1894年)を起源にしている。(6年前の1888年には山内不二門が毛筆謄写版の原理を発見しているが、ここでは事実を書くにとどめる。)
 わずか4日間の「ガリ版の百年」には、千人を超える来場者が詰めかけた。謄写器材を持参した人、器材情報を必死に求める人、若山八十氏らの多色刷孔版画に眼を見開いた人、古い展示資料のなかに謄写技術者だった父の仕事や生涯を重ねて涙ぐんだという人もあった。企画者の私は、たしかな手ごたえのようなものを感じた。
 ガリ版ミニコミ『あめつうしん』の編集者、田上正子さんと「ガリ版ネットワーク」を立ち上げたのは、同年の秋である。ガリ版器材を求める人もいて、かたや眠っている器材もまだまだある。情報収集と共に、双方の懸け橋的な活動という構想が茅ばえて形になるのにも時間はかからなかった。まずは、第1期(2年間)として、「ガリ版の百年」の時のアンケート記載者に呼びかけ、50人ほどでスタートした。当時、ネットワークの名称も、まだ初々しかった。「ガリ版ネットワークって何をしているんですか」との質問もよく受けるので、その目的を記しておく。三点ある。
 [1]不用な謄写器材を収集し、必要とする人々に手渡す活動。[2]散逸・消失されつつある史資料(器材、印刷物、孔版美術作品)の収集、保管。[3]ガリ版関連情報の収集・発信センターとしての活動。それに最近、一項を加えた。[4]全国各地のガリ版関連資料館との交流と協力。
 あれから7年になる。4月には第三期が始まったばかり。5月末には山形市(山形謄写印刷資料館収蔵庫の一画を借りて“倉庫”としている)で、春の器材領布作業を行ったところである。持ち主の後藤さん(山形謄写印刷資料館事務局長)と私、会員、ホリイのOB含め当日の作業者は九人。どの人も勝手に志願して来てくださる(?)のがうれしい。はじめて“倉庫”を訪れた会員は、その量と種類の多さに圧倒される。日本最大の謄写器材の古物店のようでもある。そこは、近代日本人の伝達・表現の道具として、いかに豊かに活用されたかを実感できる場所でもある。
 最近、新しく謄写印刷を始めた若い人(十代~三十代)も二、三にとどまらない。片手にパソコン、片手にはガリ版を選択した人々である。彼らにとって謄写技術者たちの遺した仕事の数々は、驚くべき手技(てわざ)にうつる。


参考URL

Web謄写印刷館 http://www.showa-corp.jp/toshakan/index.html
ここには「ガリ版ネットワーク日記」(1~3月)が公開されている

板祐生出合いの館 http://www.town.saihaku.tottori.jp/museum/museum.htm
鳥取県の小学校の教師だった板祐生(いた・ゆうせい。1889~1956)は郷土玩具などの収集のかたわら、謄写版を利用した孔版画の制作をつづけた。

山形謄写印刷資料館 http://members.tripod.co.jp/y_chuou/


ガリ版〈器材と情報〉ネットワーク
事務局:
〒214-0034 川崎市多摩区三田3-2 7-106 志村方
TEL.044-933-4037 FAX.044-933-4036(専用)

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