vol.15

四谷三栄町耳袋(2) [2001/07/11]

冷蔵庫

麻生芳伸と木村聖哉のふたりの同人雑誌『冷蔵庫』がある。その最新号6が届いた。この雑誌はふたりの往復書簡で構成されていて、6号には1999年3月から200年12月までのそれぞれ10通の手紙が収められている。『冷蔵庫』の創刊号は1991年5月、以後ほぼ2年おきにきちんと刊行されてきている。

なぜ、冷蔵庫という名前なのか。雑誌のカバーフラップにその由来が書いてある。

アメリカの女流作家ニム・ウェールズは、夫のエドガー・スノー(ふたりは戦後になって離婚)を追って、戦前旧中国の延安にある開放区に入り、その体験をもとに『中国革命の内部』(「内幕」との訳もあり)『アリランの歌』などの、中国革命に関する書物を発表した。

戦後、アメリカにいたニムは政府の反共政策のあおりで、彼女の書くものは出版できなくなった。彼女はそれにも屈せず、自宅にひとり籠もって、1年に1冊のペースで精力的に執筆活動を続けた。

タイプライターで打たれた原稿はきちんと包装して、冷蔵庫に保存した。1987年に李恢成さんが彼女を訪ねてインタビューしたおり、冷蔵庫には43冊の原稿が入っていたという。(1)その記事に感激して、この往復書簡の題名を『冷蔵庫』と名付けた。

(1) 『アリランの歌』覚書 http://www.eva (URL省略)
『アリランの歌』は中国に亡命した朝鮮人革命家キム・サン( 金山、本名張志楽。1905~1938)の伝記である。日本には1953年、初めて紹介された。

忘れたころ、この冷蔵庫がやってくる。そして、そのドアを開けてよく冷えたふたりの20通の手紙を読む。いつもいつも知らないことをたくさん教えてもらう。知っていたことも、封印された包みを開封するとたん、新しい風貌をもってもう一度、私の目の前に現れる。

最古の手紙で2年前、最新の手紙で半年前。この時間の停止が気持よい。ふたりのゆっくりしたものの見方が、十分冷却されたうえ、なつかしい匂いまでをも一緒に運んでくる。こんなにじっくり人と話すことが自分にはあるのだろうか。いや、話し合える友人(男であれ、女であれ)がいるだろうか。いまは急ぐこと、わかった振りをすることを競っている。

冷蔵庫のなかのひとつの包みから、花柳幻舟の近況を知ることができた。放送大学をなんと1年で卒業し、今度は司法試験を受けるため専門学校に入学。学校に行かないときは、1日20時間以上も勉強して、とうとう模擬試験で上位18人にはいった。しかし、彼女は司法試験受験を断念せざるをえなかった。受けられないことがわかった。「禁固以上の刑に処せられた者」は弁護士になれないという規定が、弁護士法にあるのだ。でも、彼女は負けない。絶えず前向きだ。凛々しいひとはいい。(2)

(2) 家元制度反対を主張する幻舟は、1980年2月、国立劇場の楽屋廊下で花柳流家元・花柳寿輔にナイフで切りつけた。幻舟は傷害と銃刀法違反で8ヵ月の実刑。幻舟は控訴せず、服役。東京地裁前で収監される幻舟を私(筆者)は目の前で目撃。そのまわりにいたのは、十数人のカメラマンと私ぐらい。たまたま通りかかったのだろうが、なぜそこに居合わせたのか、どうしても思い出せない。しかし、洗面具のはいった(たぶん)小さなバッグを抱えたトレーナー姿の彼女はよくおぼえている。幻舟は、この時も凛々しかった。

『冷蔵庫』の発行元: 東京都中野区白鷺3-4-21-106
紅(べに)ファクトリー
Tel/Fax03-3310-7686
希望小売価格1600円(消費税不要)郵送料340円


岩手県宮古のカレー屋さん

1983年か4年の5月の連休だったと思う。花巻、釜石、宮古、盛岡の通称、岩手の山手線をぐるっと回る小旅行をしたことがあった。遠野から宮古の駅につき、宿に荷物を置いたあと、ぶらりと市内見物となった。駅前にある田舎特有の割烹スタイルの寿司屋にはいる。海の町だから魚が美味しいという単純な論理。ビンゴ。うまかった、安かった。

そこのカウンターで隣り合ったのが、小幡勉さんの夫妻。なんでも、東京生まれの二人がオートバイのツーリングで東北を回っているうち、気に入ってこの町に住みついてしまった。いまは、市営住宅に住み、一緒に焼鳥屋をやっているという。

次の日の夕方、さっそく彼らのお店「とりもと」に行く。カウンターだけの小さな焼鳥屋だが、そのころは東北ではまだ焼鳥が珍しいということで、盛大な煙があがり、繁盛していた。印象に残っている「とりもと」名物は焼きバナナ。

それから十余年、かれらは大いに働き、大きな家をたて、クルーザーを手に入れ、焼鳥屋はどんどん立派な居酒屋になり(わが新宿書房はズーッとビンボーで)、その居酒屋のかたわら、障害を持つ人たちに仕事を教え、営業をまかせているカレー屋も経営している。

かれらのカレー屋「カリー(口に加と口に厘と書く)亭」が、2001年4月21日の日経新聞の夕刊(「味の取り寄せ便」筆者は料理研究家・石原明子)に紹介された。

レトルトはチキン、ビーフ、キーマ(ひき肉)の3種で、ビーフは600円、ほかは550円。ピラフやナンと相性がいい。

カリー亭: 岩手県宮古市磯鶏1-4-6
Tel/Fax.0193-64-5484(注文はできればFaxで)  
参考URL:http://(URL省略)

三栄町路地裏・目次へ戻る