vol.14

オール手書きの本 [2001/07/07]

ミニコミ・少流通出版物/新刊情報誌『模索舎月報』2001年7月号に書いたもの。

『こども遊び大全 ─ 懐かしの昭和児童遊戯集(新版)』
遠藤ケイ 絵と文

本書『こども遊び大全』は遠藤ケイが本来のイラストレーターとしての本領をいかんなく発揮した本である。遠藤ケイは現在、手作りの暮らしを千葉は鋸南町、新潟は下田村でそれぞれ実践しながら、売れっ子の紀行作家として、またライフワークである民俗学研究のために日本各地だけでなく、アジアの辺境まで足を伸ばして活躍している。

本書は昭和30年代に日本の各地で行われていた懐かしいこども遊び、「男の子編」で33種、「女の子編」で23種、関連のこども遊びをいれると合計で400種以上を収録したものである。本文の文字はもちろん表紙から奥付までがすべて手書きで書かれ、遊びの手順が詳細なイラストの図解入りで遊び方が紹介されている。遠藤ケイは新潟県の三条生まれ。読者は本書を読んで、こども遊びにもさまざまな地方バージョンがあることに気がつく。

遠藤家が子沢山、女姉妹が多かったことも、本書の味方となった。遠藤はこどものころ、女姉妹の間に挟まれて遊んでいたという。その記憶が本書の男の子編、女の子編を作らせた。本書が口うるさい女姉妹の監修、チェックを受けたことはもちろんだ。

本書の元版の初版は1991年。実は前史がある。「男の子編」は1981年に大和書房から『父と子をつなぐワンパク遊び』として、ほぼいまと同じすべて手書きのスタイルで刊行された。翌年82年に同じ版元から好評につき続編ということで、「女の子編」が『母と子を結ぶなつかしい遊び』として刊行された。しかし、この本の時は「もう疲れた」?のか、普通の活字文字とイラストで構成されている。しかし、ほんとうの理由はわからない。両方とも担当編集者は、石飛ジェスさん。

遠藤ケイさんは、新宿書房から、エッセイ集『雑想小舎から』を1982年に、『息子とアメリカとオートバイ』を1984年に、それぞれ刊行している。特に前書は遠藤さんの初めてのエッセイ集であり、初めてのハードカヴァー!の本である。

ある時、大和書房の親本が絶版になったことから、全部手書きにして、全一巻本のでかい本にしようという、無謀な密議が始まった。すべて手書きというのは校正でも大変だ。遠藤さんは絵を置いて、文字スペースを決め、鉛筆で文字を下書きして、一気に文字を書いた。少しまとまると、編集部に送られてくる。そして、校正。何回書き直ししてもらったか。校了後の青焼の段階でも、直しが出た時は、他から文字を流用して修正した。こうして、全面手書きの大冊、『こども遊び大全』は完成した。

いまや、本書はこども遊びの貴重なアーカイブズであり、博物館や学校で有効な生活史の参考資料として使われている。学校の先生も若い人になると、遊び方も知らないのだ。本書のすごさは遊びの仕方がイラストでよく再現されているだけでない。当時の路地裏、道端の情景が見事に描かれているのである。そのこどもたちの表情やツギだらけのズボン、看板や電信柱の広告、それら一つ一つで人々は、ぐいぐい時代の空気の匂いをかぐことができる。

本書は新宿書房版初版から、実に10年ぶりの新版である。その間に、一度他社の文庫本入りした経緯もある。このことは、この「路地裏だより」で一度触れているので省略。

参考URL: 模索舎 http://www.mosakusha.com/

アナクロゲーム大辞典 http:// www.fsinet.or.jp/~m_kit/flametop.htm
こんな遊びもあった。

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