vol.13
泥だんごルネサンス [2001/07/01]
6月14日に放映されたNHKTVにんげんドキュメント『光れ!泥だんご』が面白かった。日本の保育園で、泥だんご作りが大流行している。その仕掛けの中心人物が、児童心理学者の加用文男(かよう・ふみお)京都教育大学教授だ。子どもが夢中になる泥だんごを児童心理学の見地から研究しているようだ。しかし、加用さん自身がそのピカピカ泥だんごに夢中になっている。
「泥だんごのホームページ」というのもある。「泥だんごはまだまだ神秘と謎につつまれている、21世紀を迎えて、今こそ全国の賢者・ツワモノ達の知恵と経験を結集すべき時」と、「日本泥だんご科学協会(Association
of Nippon Doro-dango Science, 略称ANDS,アンズ)を設立、理事長には加用文男が就任した。
実は昔から各地に泥だんご作りの遊び文化があって、いま50代の保育者のなかには高度の技術をもった人がいる。この技術の消滅させてはいけないという思いが、アンズの設立になったようだ。
最高の技術を積み重ねると、ピカッと光る表面に顔を近づければ自分の顔がくっきりと映るようになる。可用さんは泥だんごの基本的な作り方と光度0から5までの見本写真を載せた光度表を刊行した。(1)
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『泥だんご光度表』ひとなる書房、税込200円(直売) |
確かにこの泥だんごはむかしから保育園で作られていたようだ。インターネットで検索してみると、「つるぴかダンゴ」とか「泥だんごを真上から投げ下ろしてその強さを競う遊び」や「ものすごい強いだんごは帝王とよばれる」とか、泥だんごを「鉄まんじゅう」略して「鉄まん」と呼んだ、などいろいろ出てくる。この泥だんごに大人も大いに反応する。(2)
加用さんは、泥だんご作りには、従来の児童心理学が見過ごしてきた、競争や評価の入り込まない、子どもの遊びの本来の姿があるとみている。泥だんごの世界はあくまでも個人的であるし、技に対するお互いの尊敬がある。(3)
(3) |
『身体感覚を取り戻す ─ 腰・ハラ文化の再生』(NHK出版)の著者、斎藤孝明治大学助教授は、「練る」「磨く」「研ぐ」「締める」「絞る」「背負う」などの動きが、現代日本の日常生活の中から、急速に失われていることを指摘する。泥だんごは、「練る」「磨く」などの身体感覚の取り戻す遊びではないだろうか。 |
泥あそびに特有な感覚的な楽しみは、大人の心の下層に残存するようだ。しかも泥には浄化や化粧、異装などパフォーミングへの誘いがある。(4)
いやはや、泥だんごから、ずいぶん逸脱してしまった。加用さんの泥だんご子ども研究はこれから何を発見するのだろうか。泥だんごの国際比較の児童心理研究はありえるのだろうか。でも、こんなリアクションが出てくる日本の幼児教育(いや教育全般だ)の危機は深い。(5)だからこそ、加用さんは、滑り台のはしに寝そべり、ニコニコして子どもたちの泥だんご作りをながめ、まさに地べたの在野の視点から、幼児教育回生泥だんご運動の先頭に立とうとしているのだろう。
(5) |
いま、日本の公園の砂場がフェンスで囲まれ、鍵がかかり、ビニールシートで覆われ始めている。しかも、子ども用にこんな商品も売り出されている。
「こどもの手袋」http:// (URL省略) |
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