vol.10

白神のブナの森から [2001/06/15]

秋田県山本郡藤里町。JR奥羽本線の二ツ井駅から白神街道を北に向かうと、白神山地のふところに抱かれる町に着く。

白神山地は「出羽山地の一部であり、青森県と秋田県の県境に位置する山地。白神山地は岩木川、赤石川などの津軽地方の主要河川と、秋田県側の米代川水系の支流の源流部である。本州最後の秘境といわれ、広大なブナの原生林が広がる」。(エンカルタ百科事典から)

1982年から始まった青秋林道(広域基幹林道「青秋線」)の工事は、87年にはすでに秋田県側から青森県側まで入り込んでいた。82年にはまず秋田県の「秋田自然を守る友の会」(鎌田孝一会長)が反対の声をあげ、翌年83年には、青森県の根深誠らが「白神山地の自然を守る会」「青秋林道に反対する連絡協議会」を設立して、ブナ原生林保護運動に取り組み始める。

87年に青森県西津軽郡鰺ケ沢町の赤石川流域の住民たちが林道工事による河川の汚濁反対などをかかげて、「赤石川を守る会」を発足させた。青秋林道の建設にともなう水源かん養保安林の指定解除に対する1万4000人の異議意見書は、青森県知事を動かし、90年に林道の建設は正式に中止となった。

白神山地のブナ原生林は当面なんとか守られた。93年には白神山地は屋久島とともに、日本の世界遺産登録の第1号になった。しかし、登録されたのは、全体で13万haにおよぶ山地のうち、ブナの原生林1万7000haのみである。

二ツ井駅からほどちかいところ、米代川と藤琴川が合流する地点に、巨大な岩山がある。明治14年(1881年)の地方行幸のおり、夏の長旅を気づかう皇后の手紙がこの地で旅する明治天皇を待っていた。そのことに由来して、この名無しの岩が「きみまち阪」と名付けられたという。二ツ井町では、1995年から、毎年「きみまち恋文全国コンテスト」を行い、恋文を全国から募集している。

小坂たまみさんは、秋田県のディープサウス、山形県に近い、羽後町に生まれた。ここは毎年8月16日~18日に行われる西馬音内(にしもない)盆踊りが有名だ。(1)彼女も子どものころは踊っていたという。小坂さんは大学卒業後3年ばかり、新宿書房にいたことがある。『海を渡った朝鮮人海女』『yes,BUT・・・』の2冊を企画、編集した。その後、数社の出版社で雑誌関係の仕事をしたあと、1996年に故郷の秋田に戻り、いまはこの藤里町に住んでいる。詳しくはSmart Womanのインタビューを参照。

その小坂さんが一念発起して、国内旅行業務取扱主任の試験に合格し、今年の4月24日に秋田県知事から旅行業登録(旅行業第3種99号)を受けて、森の手づくり旅行社「白神山地きみまち舎」(2)を始めた。

「白神山地きみまち舎」では、森を訪れる方々のご希望をもとに、手づくりの旅を企画し、そのための手配を行います。白神山地は、全国の皆さんと地元の人々が力を合わせ、大規模林道を阻止し、奇跡的に残された原生のブナの森です。森には多様な生きものが暮らしています。この森を未来の子どもたちへと手わたしてゆけるような森との関わり方を、皆さんにお願いできれば幸いです。(同舎パンフより)

小坂さんは「白神山地きみまち舎」の名前のいわれを「きみまち阪周辺は昔から〔恋の沢〕といわれ、人と人がめぐり合うという意味がありました。そこで白神山地(藤里町)ときみまち(二ツ井町)から、自然に守られ、同時に自然を守っていく舎(まなびや)を始めようと考えました」と説明してくれた。

小坂さんは、編集の仕事も忘れていない。白神を守る地元の子どもたちの組織「秋田自然を守る少年団」25周年を記念してカレンダーを出版。企画から制作、宣伝、販売まで全部ひとりでやり、4000部をわずか50日で完売させたという(すごい!。実は私も10部買いました!)。また、きみまち舎の指定宿舎、温泉宿「藤駒荘」のご主人の山里の生活の聞き書きをして、『白神山地 鄙(ひな)の宿』(土佐誠一著、2001年、影書房)として刊行している。

若いころの小坂さんは、何に対してもつんのめるように急ぎ足で歩いていた。今はゆっくり、ゆっくり、いろいろまわりをながめたり、うしろを振り返ったりして、歩いているようだ。なにしろ、白神山地のブナの森に守られ、秋には「狂ったような恐ろしいまでの紅葉ぶり」(簾内敬司)の自然に包まれているのだ。時間は十分あります。急がないで、大きく深呼吸をして、きみまち舎を成功させてほしい。

(1) 二ツ井町に在住の作家、簾内敬司さんの『菅江真澄 みちのく漂流』(2001年、岩波書店)には、真澄が天明5年(1785年)に、雄勝郡の西馬音内の庄、小野郷に向かったことが書かれている。小野は小野小町の出生したところと伝えられている土地である。小野村は現在の雄勝町になる。西馬音内はそこから目と鼻の先にある。
「西馬音内盆踊りは、端縫いの着物を着た女たちの群れが深いかぶりの編笠で顔を隠し、あるいは黒いひこさ頭巾で顔を隠して死者たちと邂逅するために踊るのだが、女たちの手と足の身じろぎの幽玄は、それを観ている者たちをも、生者と死者の棲み分けている縁(へり)を見えなくして、裂け目へといざなう。」(同書より)
(2) 白神山地きみまち舎 営業時間/午前9時から午後6時(FAXは24時間受付)
木曜日定休 秋田県山本郡藤里町藤琴下湯の沢62
TEL・FAX=0185-79-2282

<白神山地参考URL>
世界遺産に登録されたことが観光開発を招き、白神はあらたな環境破壊の危機に直面している。
その意味で[3]のサイトは保護の歴史にも十分フォーカスして、充実している。

[1]白神山地を守る会:http://www.infoaomori.ne.jp/~nagainpo/

[2]世界遺産白神山地:http://www.pref.aomori.jp/sirakami/index.html

[3]世界遺産白神山地ってどんなとこ?:http://www.jomon.ne.jp/~misago/sirakami.html

[4]西目屋村役場ホームページ:http://www.vill.nishimeya.aomori.jp/

[5]八森町役場:http://www.shirakami.or.jp/~hatimori/

[6]藤里森林センター:http://www.shirakami.or.jp/~fujisatofc/

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