vol.4

京都プロジェクト[2001/05/24]

先週の一日、京都で勉強した。房主は4年前まではパソコンのキーボードさえ触ったことがなかったのに、なぜかマルチメディア百科事典の編集部にさそわれ、昨年まで雇われ編集長をやっていた。いわば国際出稼ぎで、インターナショナル・チームの編集会議だといって、アメリカに行った。マイアミには2度もでかけた。おかげで、幸運にもキーウエストにあるヘミングウェイの旧居に行って、そこにいるたくさんの猫たちに会うことができた。もちろん人間にも会った。イタリアやフランスのゆかいな、われわれと同じ編集者の匂いをもった人間に会った。同じホテルで全米タットー自慢大会に出くわし、総身刺青のカメレオン人間たちにも会えた。

まずはマイクロソフトのエンカルタ百科事典の最新版の2001年版を開いてほしい。冒頭の「編集長からのメッセージ」をクリックすると、わが房主のご尊顔を拝することができる。口の悪い連中は、あのパラパラ髭の写真を見たトタン、この製品の売れ行きが鈍るという。しかし、先に進んでほしい、日常的に使い込んでほしい。きっと楽しい百科事典であることがわかるはずだ。私のパソコン力はまったく進歩していないし、いまでもIT難民であるが、この知的ディズニーランドというべき、エンカルタ百科事典の編集に参加したおかげで、書籍に対する興味が以前にもまして強くなってきたことは、事実だ。前より本を愛している。書籍のデジタル再生計画については、いつかまとめて書きたい。

さて、およそ3年間、昼はエンカルタの電子事典編集部、夜はアナクロならぬアナログ書籍編集部、都営地下鉄の笹塚と曙橋の間を一本の電車に乗って、一日のうちにこの二つの世界、天国と地獄(どちらが?)を行き来した。電脳化された頭はアナクロの場で癒される。これは正直事実で、四谷の路地裏で私のヒートアップした体はクールダウンできた。

そのエンカルタで知り合った神戸女学院大学の村上直之さん(社会学)にさそわれて、「平安・京都ビジュアル・データベース化プロジェクト第4回研究会」(4月15日)に参加した。このプロジェクトの概要は国際日本文化研究センターのサイトを参照。
http://www.nichibun.ac.jp/~heian-tr/kyoto-map/

江戸時代の古地図と現在の地図を重ねあわせ、そこに自然情報から人間社会までの様々な情報を埋め込み、ビジュアルな歴史地理情報を取り出すというプロジェクトは、なかなか魅力的だ。GPSとPDAとを組み合わせれば、古都京都の町ガイドとしても使える。ウォーキング歴史情報ナビだ。街角にたつ「●●旧居跡」の標識の前でその人物の画像や詳しい情報が手に入るし、当時の往来の絵図などものぞける。画像もすごくいい、かなりの拡大にもたえられる。しかし、一般公開に際しては、プライバシーの問題や著作権のクリアなどにかなり難問がありそうだ。

歴史人物情報のデータベースのデモもあった。京都の歴史上の人物が検索でき、その人のさらに深い情報(官位や著作物や家系など)へと下りていくことができる。この人がどこに住んでいたか、どのように引っ越していったかが地図上でわかる。この深い情報への降下、拡散のさいに、百科情報が参与できるのではないかと思った。百科事典の情報が他のコンテンツと融合することによって情報自体が再生し、分散、集中を繰り返すうちに、さらなる知識へと転化する。また、地図に埋め込まれる情報には近世の考古学情報や年代ごとの航空写真もふくまれる。

このプロジェクトを主宰するのは33歳の森洋久国際日本文化研究センター助教授だ。かれは1999年に、木下直之さん、佐藤健二さん、吉見俊哉さん、北原糸子さんらと、かわら版・新聞錦絵データベース「ニュ-スの誕生」の展示とCD-ROMの製作という、いい仕事をしている。機会があったら、ぜひ見てほしい。ボイジャーで市販している。

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