(118)電線絵画から見える風景

[2021/4/17]

家の近くにある練馬区立美術館で「電線絵画展」なるものをやっていることを知って、リモート勤務のある日、自転車に乗って行ってみる。帰りに図録(求龍堂刊の単行本『電線絵画』)も買う。

『美術手帖』が以下のように本展をかいつまんで説明している。
「小林清親(こばやし・きよちか)による浮世絵や新しい電線風景を見せる山口晃の作品など、日本画、油彩画、版画、現代美術作品ほか約130点を展示。明治初期から現代に至るまでの「電線・電柱」が担った役割と、各時代ごとに絵画化された作品の意図を検証し、近代都市・東京を新たな視点で見つめ直す。」
電柱に電線を絶縁固定するものを碍子(がいし)という。多くは陶器製で、本展では「碍子の造形」と題し、一章を割いてその造形美も紹介している。
「電線絵画展」の企画者である加藤陽介(練馬区立美術館学芸員)へのインタビューが掲載されているサイトがあり、これがなかなか面白い。加藤は10年の歳月をかけて、この展示作品130点を集めてきたそうだ。
「絵画に描かれる電線・電柱は日本特有のガラパゴス的なものであり、地中化の進展で『絶滅危惧種』にも近づいています。また美術史と産業史は分けて考えられがちですが、決して切り離せないもの。産業が発達して世の中が変われば、絵画で描かれるものも変わりますし、同じものを描く際の視点も変わります。電線・電柱を描く絵画は、日本独自の産業発達に伴って生まれたものなので、『そうした絵画を読み解くことで、海外にはない近代美術史・産業史を描けるのではないか』と思い、この展覧会を企画しました。」
ロンドンやパリ、ニューヨークの市街での電線地中化率は100パーセントに近いという。これにならってか、国土交通省も無電柱化事業を「景観・観光」「安全・快適」「防災」からも進めているそうだ。わが小池百合子都知事も国会議員時代に、『無電柱革命』(PHP新書、2015)なる本を共著で出していることも図録やこのサイトで知った。

この新書の帯の左の絵に注目。「無電化を進める団体が北斎の赤富士の中に電柱が林立するコラージュ画像を啓発のキーアイコンとして使用したもの」(「電線絵画展」図録より)だ。

展覧会の図録にある「電線年表 草創期の東京の電信・電気・電車事情」(1854〜1923)も貴重な資料だ。この年表を眺めながら、日本での映画の歴史を重ねてみる。映画が大衆の娯楽になってきた時代には、時代劇のロケで電線・電柱が映らないように苦労が必要だった。一方、現代劇映画の中に写り込まれた電線・電柱は、日本の暮らしの記録として貴重な映像資料になっている。岡田秀則さん、ぜひ国立映画アーカイブで、「電線映画祭」を企画してください。

参考サイト:
・記録映画保存センター:https://kirokueiga-hozon.jp
 ここから、「電線」「電柱」などの言葉から所蔵する記録映画が検索できる。
・「アニメと電線・電柱」の関係を考察する:
https://gigazine.net/news/20171225-why-anime-power-lines/

今和次郎が考現学を提唱したのが1927年だ。それが、1972年に今和次郎を会長にした「日本生活学会」に引き継がれた。松田哲夫、赤瀬川原平らによって1986年に設立された「路上観察学会」や高橋美江さんの街歩き・下町散歩も、その系譜に連なるものだろう。
ところで名古屋には「野外活動研究会」という、いまも活発に調査を発表している研究会がある。1974年にスタートしたこの野外研もやはり、考現学や生活学と共通の視座をもちながら、より身近な生活や風俗をフィールドワークで記録・採集する活動を続けている。いつも、岡本信也さんに機関誌(季刊)や冊子を送っていただいているが、その目線がすさまじいのだ。野外研の「フィールド選書2」、『軒下のミュージアム わたしと世界のあいだを観察する方法』という冊子がたまたま手許にある。このなかの岡本靖子さんの観察「粘着テープの妙」を紹介する。

野外研の資料をさらにいろいろ探していたら、『観察の友 フィールドから VOL.109』(2009.06)が出てきた。この号には、岡本信也さんの「電線。」という観察が掲載されている。左隅に木村荘八による東京大震災(関東大震災)後のスケッチの模写がある。「焼け残った電柱、たれ下がる線」とある。

いっとき、「工場萌え」という言葉がはやり、写真集も出た。工場と同じように、電線・電柱・鉄塔に萌えている人々がいるようだ。近くの図書館から本を借りてみる。
『鉄塔 武蔵野線』銀林みのる、新潮社、1994
これは懐かしい本だ。映画化もされたという。
『東京鉄塔』サイマルヒデキ、自由国民社、2007
『群れ鉄塔』一幡公平、タカノメ特殊部隊、2018
『電柱マニア』須賀亮行、オーム社、2020
また、「送電鉄塔見聞録」や「送電線」というサイトもあり、圧は高い(笑)。

今はできない宴会での『電線音頭』でしめることにしよう。

チュチュンがチュン チュチュンがチュン
電線に 雀が3羽 止まってた
それを猟師が 鉄砲で撃ってさ
煮てさ 焼いてさ 食ってさ
ア ヨイヨイヨイヨイ オットットットッ
ア ヨイヨイヨイヨイ オットットットッ