(114)九段下・耳袋 其のじゅうなな

[2021/3/19]

今週は本についてあれこれ。

クレインの文さんの本が出る!

友好出版社のSUREから近刊のお知らせが届いた。なんと昨年秋から噂を聞いていた本がいよいよ出るという。文弘樹(ムン・ホンス)著『こんな本をつくってきた―図書出版クレインと私』だ。ムンさんが図書出版クレインを始めて、もう25年になるという。SUREの近刊チラシを読んでみる。

本書は、15歳の少年時代から45年間にわたる親友、作家・黒川創らを聞き手に、文さんの出版活動を支える思索、方法、経験の数かずをつぶさに明らかにしていきます。

ムンさんと黒川さんは京都の大学時代からの知り合いと聞いていたが、もっと古い付き合いであったのだ。そして、二人はなんと、まもなく還暦だと!

60点余りに及ぶクレインによる多様な書籍出版は、現代日本社会の一隅に生きる私たちに、知恵のともしびの役割をたびたび果たしてくれています。企画立案、著者・関係者との相談や交渉、書籍製作、装丁、ホームページの管理や営業活動……まで。

この25年間、ムンさんは、どこまでもどこまでも、ひとりでやり遂げてきた。いまや既刊本の電子書籍化も進めているという。

人間の仕事とは、何か? どうやって、本はつくられていくのか? 一人の大衆、あるいは、一人のマイノリティとして、日本社会を生きることとは、いったいどういう経験か?

この本を、はやく読みたい。わたしも本をつくってきたひとりとして、あらためてムンさんから、抗う生き方を学びたい。

むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞・優秀賞(第3回)を受賞する 在日総合誌『抗路(こうろ)』の継続的な刊行……。

クレインが発売元の在日総合誌『抗路』(抗路舎、2015年9月創刊)も8号まできたのだ。

「小原真史 イッツ・ア・スモールワールド 帝国の祭典と人間の展示」

後藤秀聖さん(日本画家・美学校講師・原爆の図丸木美術館研究員・見世物学会会員)が、大きな本を抱えて編集室にやってきた。それは、京都伝統産業ミュージアムで開かれていた展覧会「小原真史 イッツ・ア・スモールワールド 帝国の祭典と人間の展示」(2021.2.6〜2.28)の会場でカタログがわりに売っていた『photographers’ gallery press』の最新号、no.14だ。

インディペンデント・キュレーターの小原真史(こはら・まさし 1978〜)が収集し、企画したのが本展だ。この『photographers’ gallery press no.14』(2019年12月発売)で特集した「「人類館」の写真を読む」において誌面キュレーションした図版200点をもとにして、約1500点の写真や絵葉書などのコレクションと約200点のスライドで構成されていた。最終日に会場を覗いた後藤さんは、それらの展示物から「並々ならぬ資料蒐集家特有の熱量を感じつつ、客観的な視点で展示構成がされていました。」という。それは『photographers’ gallery press no.14』を見ても感じる。
同書の目次は以下のようになっている。
論考:小原真史 「「人類館」の写真を読む」
誌面キュレーション:小原真史 「帝国のショーケース 博覧会と〈人間の展示〉」
邦訳:パスカル・ブランシャール、ジル・ボエッチェ、ナネット・ヤコマイン・スヌープ(橋本一径訳)「見世物(エグジビション)――野蛮の発明」
*パリ・セーヌ川のほとりにあるケ・ブランリ(ブランリー)美術館で刊行された展覧会カタログ(2011)からの翻訳

明治時代に日本では、5回の「内国勧業博覧会」が開かれた。会場は、第一回(1877=明治10)、第二回(1881=明治14)、第三回(1890=明治23)はそれぞれ東京・上野公園、そして関西に移って、第四回(1895=明治28)は京都・岡崎公園、第五回(1903=明治36)は大阪・今宮だった。第五回内国勧業博覧会では初めて海外からの出品があり、また「人類館」(会期途中で「学術人類館」と名称を変更)が場外余興として開館した。この人類館では、アイヌ・台湾高砂族(生蕃)・沖縄県(琉球人)・朝鮮(大韓帝国)・清国・インド・ジャワ・ベンガル・トルコ・アフリカなど合計32名の人々が民族衣装をまとい、日常生活の姿で展示された。日本での博覧会初の人間の展示施設となった。この展示に対して、清国と沖縄県から強い抗議が起きた(「人類館事件」)。第五回内国勧業博覧会の入場者数は153日で530万人を超えた。
この5回にわたる内国勧業博覧会の前後の歴史をみると、1879年(明治12)・沖縄県設置、1895年(明治28)・台湾の日本植民地化、1910年(明治43)日韓併合、そして第五回内国勧業博覧会の翌1904年(明治37)には日露戦争が起きている。
今回の「小原真史 イッツ・ア・スモールワールド 帝国の祭典と人間の展示」の会場は、奇しくも第四回内国勧業博覧会跡地の岡崎エリアの京都伝統産業ミュージアムを舞台にして開かれた。キュレーターの小原真史は2017年に「学術人類館」で撮影された写真を、あらたに3枚発見している。ぜひこの展覧会「小原真史 イッツ・ア・スモールワールド 帝国の祭典と人間の展示」の東京での開催を望む。

内国勧業博覧会が開かれた明治の時代、1886年(明治19)にイタリアから「チャリネ曲馬団」が来日している。このチャリネ曲馬団は大センセーションを巻き起こし、3年後に再来日する(蘆原英了著『サーカス研究』新宿書房、1984)。サーカス、見世物からの視点で「学術人類館」をもう一度、考えてみたい。その意味で、『photographers’ gallery press no.14』の邦訳の「見世物(エグジビション)―野蛮の発明」をじっくり読んでみよう。

参考サイト:
https://pg-web.net/news/masashi-kohara210220/
https://pg-web.net/documents/lecture/workshop-201801/
https://www.ycam.jp/events/2018/the-1903-human-pavilion-and-expositions/
https://ja.wikipedia.org/wiki/内国勧業博覧会
https://ja.wikipedia.org/wiki/人類館事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/人間動物園
https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/journey_to_jinruikan.html