(108)「kumano 森のふくろう文庫」

[2021/2/6]

先日、和歌山県田辺市本宮町(ほんぐうちょう)の方からメールをいただいた。安原克彦さんという方からで、昨年の11月21日、地元の本宮町で「kumano 森のふくろう文庫」という古本屋ブックカフェを開店したという。「本は古本を中心に並べていますが、新刊本も扱いたいと思っています。そこで地元の作家である、宇江敏勝さんのコーナーを展開したいのです」とおっしゃる。何回かやりとりがあって、新宿書房の宇江敏勝さんの全著作(在庫あるもの21点、21冊)を購入していただくことになった。
安原さんのブックカフェ「kumano 森のふくろう文庫」とは、どんなお店なのだろうか。安原さんから、森のふくろう文庫を紹介した新聞(『紀伊民報』2020年10月27日号、『紀南新聞』11月27日号)なども送っていただいた。

この「森のふくろう文庫」は熊野参詣道のひとつ、「中辺路」(なかへち)の第27番目の「祓殿王子(はらいどおうじ)」跡の小さな森と熊野本宮大社の裏手の間にあるらしい。安原さんのお店をすでにおとずれた方のブログがこのブックカフェ内の様子を詳しく紹介している(ちなみのこの旅するカフェ「ラポラポ」も気になります)。
店主の安原さん(56)は大阪出身で東京での会社勤めの後、2006年にここ本宮町に移住し、地元の「癒しの里の小さな食工房」をキャッチフレーズとする「熊野鼓動」(くまのこどう)という食品会社の工場長を務めてきたようだ。そしてこの間、「美しき熊野川100年会議」の事務局を担当して熊野川の清掃活動を行い、また地域主導の自然エネルギーの普及により、持続可能な地域づくりに寄与することを目的とする「南紀自然エネルギー」の運動にも関わっている。そして、それらの思いがこの「kumano 森のふくろう文庫」の開設までにつながったのだろう。このブックカフェのキーワードは「人と人」「文化と文化」「サイエンスとアート」の〈交差点〉だという。そしてお店も表通りの国道を避け、あえて人が歩いて行き来する熊野古道(くまのこどう)の目の前に建てた。
ここ旧・本宮町は2005年5月に、龍神村(りゅうじんむら)、中辺路町(なかへちちょう)、大塔村(おおとうむら)と一緒に田辺市に合併された。安原さんのSNSなどを読むと、大逆事件で6名の熊野人が死刑判決を受け、そのうち大石誠之助(新宮町=現・新宮市)と成石平四郎(請川村[うけがわむら]=現・田辺市本宮町)が絞首刑となったという、熊野の重い歴史的事実をしっかりと受け止めていらっしゃるようだ。ここに宇江さんの本が置かれることになったのは、ほんとうにうれしい。この森のふくろう文庫には、スクリーンがあり、映画会やトークもできる。また毎月、本の特集も組んでいくそうで、昨年12月は「子どもの未来」、今年は1月「アメリカ」、2月「フェアトレード」、そして3月は「3・11」と続くようだ。

この「kumano 森のふくろう文庫」のことを聞いて、大石誠之助ことドクトル大石が、あの新宮の町でひらいた「太平洋食堂」を連想するのは私だけではないだろう。「太平洋食堂」もまた人と人の交差点であった。
参考:本コラム(73)(74)(100)

さきほど、「kumano 森のふくろう文庫」に宇江さんの本が届いた、との知らせがあった。

「kumano 森のふくろう文庫」
安原克彦
〠647-1731 和歌山県田辺市本宮町本宮1091-3
090-9247-9407