(102)鈴木一誌さんと宇江文学の装丁

[2020/12/18]

完結した「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」全10巻の装丁は、すべてデザイナーの鈴木一誌さん*と歴代の事務所のスタッフのみなさんの手になるものだ。鈴木さんは、各巻とも校正に入る前から本文組の設計をし、組み上がった初校(組版=エディマン・原島康晴)に対して注文を出す。そして本文を深く読み込み、ご自分でたくさんの関連する図像・写真を集め、宇江さんにお願いして提供していただいた写真アルバム・参考図書の図版や、編集部が集めた参考材料も取捨選択をされたうえで、装丁作業に臨んでくださった。
そこで今回、実際にこの民俗伝奇小説集を手にしないと見ることができない、本表紙(表・裏)、化粧扉、本文デザイン頁(一部)お見せしよう。鈴木一誌デザインによる宇江敏勝文学のビジュアルワールドをお楽しみください。

「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」(2011〜2020)全10巻(全収録66作品)
最新刊『狸の腹鼓』から最初の『山人伝』まで遡って並べてみよう。



  

 



  

 



  

 



  

 



  

 



  

 



  

 



  

 



  

 



  

いかがだろうか。カバーをはずした本の姿はなかなか新鮮に感じるものだ。 「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」全10巻はすべて上製本(ハードカバー)である。製本所は老舗の松岳社(しょうがくしゃ 旧・松岳社青木製本所)だ。ちなみに『山人伝』(2011)『幽鬼伝』(2012)の奥付には旧社名が印刷されている。
上製本の部位には、花布(はなぎれ)、しおり(スピン)、見返しなどがあるのをご存知だろうか。装丁者はこれらの選択にも心を配る。これらの色が各巻の装丁にあわせ微妙に変わるのだ。これらを眺めるのも鈴木デザインの楽しみのひとつだ。いつもとは少し視線をかえて「宇江敏勝 民俗伝奇小説集」を楽しんでいただけたら、この本に携わった者にとって幸せである。

鈴木一誌(すずき・ひとし 1950〜)さんは、日本を代表するグラフィック・デザイナーのひとりである。私は鈴木さんと最初に出会ったのは1972年、彼が杉浦康平事務所に在籍していたときだ。平凡社の『百科年鑑』の仕事をお願いしたころだから、1973年だろうか。一緒にした最初の仕事は『百科年鑑1976』の「ある日1975―ひとりの人間の、行動とモノの記録」(監修・執筆=今防人)と「日本人の性意識―戦後性文化史昭和20→50年」(解題=天野哲夫、文献案内=長谷川卓也)。そして『百科年鑑1977』では「ロッキード事件’76」(監修=立花隆)という大疑獄事件の特集があった。新米編集者の私は、ここで鈴木さんに厳しく鍛えられた。


デザイン=杉浦康平+鈴木一誌 イラスト=渡辺冨士雄

鈴木一誌さんは1985年に独立。その後は、新宿書房の装丁を数多くお願いしてきた。「十二支シリーズ」(企画=矢川澄子)や山尾三省さんの本(『縄文杉の木蔭にて』『回帰する月々の記』)、近年は映画や写真集の本も多い。また宇江さんと親しかった斉藤たまさん(1936〜2017)の「ことばの旅」のシリーズをまとめた『鶏の鳴く東』『ベロベロカベロ』(どちらも2012)の装丁もあり、これらは私のとても好きな本である。さらに、鈴木さんは映画評論家という別な顔も持っていて、数多くの映画本を出版されている。ご存知の方も多いはずだ。